『ジャック・オライオン』はイギリスの伝承歌。フィドル(ヴァイオリン)奏者ジャック・オライオンがその技芸でもって王女の愛を勝ち取るも、不実な従者の裏切りによって王女を奪われ、王女を失い、そして従者を道連れに死を選ぶという、実に悲しくもセンセーショナルな内容が歌われています。バラッドらしく、シンプルなフレーズが延々繰り返されて、演奏時間たるやなんと十八分。けれど、ペンタングルによる演奏は、ギターの技芸、歌唱の充実によって、その長丁場を飽きさせません。むしろ、何度でも聴きたいと思わせるような、本当の魅力をたたえた名演です。
『ジャック・オライオン』が収録されているのは、全編トラッドで構成された『クルエル・シスター』で、私はそもそも『クルエル・シスター』(こっちは楽曲名、さっきのはアルバム名ね)聴きたさにペンタングルのアルバムを揃えたのですが、『クルエル・シスター』のみならず、『ジャック・オライオン』にもすっかり魅了されてしまいました。
『クルエル・シスター』はA面のラストナンバー、そしてB面は『ジャック・オライオン』一曲という素敵構成。音楽はぴしっと楽曲を貫いて、緊張と弛緩を巧みに使い分けながら、ぐいぐいと聴き手を引っ張ります。歌うのはギタリスト、バート・ヤンシュ。ジャッキー・マクシーも加わって、本当に贅沢な仕上がり。私は、この人たちの演奏を聴くと、自分もいつかこういう境地にいたりたいと思い — 、この思いは当時ペンタングルに影響された多くの人たちも同様に抱いた思いであろうと思います。
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