2005年9月20日火曜日

Dissonanzen: Musik in der verwalteten Welt.

 Dissonanzenとはなにかというと、ドイツ語で不協和音のこと。二十世紀ドイツを代表する哲学者であり音楽批評家でもあったアドルノが、当時の音楽を取り巻く状況を観察し、絶望し、嘆いたという、そういう本であります。その内容たるやすさまじいもので、芸術音楽こそを絶対の価値と捉え、娯楽音楽は外道中の外道と断ずるアドルノの筆の強さよ。流行音楽に躍らされるようなものは俗物であり、愚物であり、思考する力などそもそもない動物のような輩なのだ、って書いてある。本当に書いてあるんです。

けど、こんなこというと誤解されてしまうかも知れませんが、私、結構アドルノのいってることは好きで、そいつはいいすぎだよ、とか突っ込みながらも、面白がって読んだものでした。

私がアドルノを読んだのは、ほかでもなく修士論文を書くためで、最初はおっくうだなと、正直手を出す気にはなれませんでした。

というのもですね、アドルノは難解で知られた人で、なにが難解といってもその文章からが難解。なにをいいたいのかわからないもってまわった文章で、けれど音楽学、とりわけ美学や近代音楽を研究対象に選んだような人間は、この人の難渋文に付き合わなければならない運命なのです。

だから、つきあいましたさ。けど、読んでみると、事前に思っていたほど悪くはなかった。それは、訳の力だったのかも知れません。あるいはこの『不協和音』がたまたまわかりやすかったのかも知れません。いずれにせよ、私はアドルノの著書に触れて、そりゃあんまりいいすぎだといいたくなるような当てこすりも読んで、それでもやはり読むべきものではあると感じたのでした。

さて、私の読んだ『不協和音』は日本語訳でしたが、論文を書くときには、日本語訳だけでは不充分です。原文にあたることが望ましいんですね。ですが、大学の図書館には『不協和音』の原語版がなかった。しかたないから、他大学の図書館の蔵書を調べて、借りてもらったんです。こういうのをILL(図書館間相互貸借)っていうんですが、この場合、送料はもちろん私持ち。当然ながら往復分を負担します。

ILLでは宅配便が使われるのが一般で、だからあの時は1,600円くらいとられましたね。でもね、『不協和音』の原語版はペーパーバックが出ていて、1,200円くらいで買えたんです。

私は後からこのことを知って、どれほど悔しがったか。洋書は高いという思い込みから犯してしまったミスで、まさに痛恨。手もとには1,200円の値札のついたペーパーバックが届いていて、けど、それは借り物です。しかたがないから、さらにお金払って、必要なページをコピーして……、苦い思い出だなあ。

苦いといえば、アドルノのドイツ語は、初歩ドイツ語しかやっていなかった私にはあまりにも厳しくて、せっかくコピーしたのに、ただ眺めて終わった……。やっぱり苦い思い出だなあと — 。

けど、こうした苦さも振り返ればよい思い出であると思えるのだから不思議です。

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