2005年9月4日日曜日

いる?いない?のひみつ

 学研のひみつシリーズといえば学習漫画として広く知られているのでありますが、ところが中には異色作もあって、とにかくひとつ異色作を挙げてみなといわれれば、誰もが思いつくのは『いる?いない?のひみつ』なのではないかと思います。

『いる?いない?のひみつ』、いったいなにがいるというのか、いないというのか。それは、宇宙人・怪獣・ゆうれい・超能力者なのです。オーマイ! オカルトじゃんかこれ。宇宙人の章では、日本で目撃された小型UFOやFBIに連行される宇宙人といった定番もの、怪獣章ではニューネッシー、シーサーペント、イエティ、それからビッグフットあたりもいたかも知れない。いたかも知れない? なぜ私がこんなあやふやな言い方をするかといえば、この本は私の手もとに残っていないからなのです。子供だった私にはあまりにおそろしい内容を含んだ本で、それはそれは何度も読んだのですが、どうしても手もとに置くのはためらわれて、従姉妹にあげてしまったのでした。あの物持ちのいい従姉妹のことだから、もしかしたら残してくれているかも知れないけれど、けれどさすがに捨ててしまったでしょう。だから私は今になって後悔しています。

なにが怖かったのかというと、やっぱり幽霊なんですよね。ですがある一事例を除いてほとんど覚えていません。あんまりにその一人のインパクトが強すぎたから、他の幽霊に関する事例は吹き飛んでしまったようで、そのただひとつの事例というのはかの有名な霊媒ピアニスト、マーガレット・ブラウンです。

マーガレット・ブラウン。ある夜、リストの亡霊が彼女のもとを訪れて憑依したのだそうです。翌朝隣人がいうことには、奥さん、ピアノがお上手なんですね。ブラウン夫人それに答えて、いえ私ピアノは子供の頃に少し習った程度なんですよ……。

そう、あの夜のピアノは、十九世紀の大ピアニスト、フランツ・リストが弾いていたのでした。

キャーッ!!!

それからというもの、ブラウン夫人の家にリストはたびたび訪れて、しかも時にはお友達のショパンさんやシューベルトさんたちを連れてきてくれて、って、おいおい正気かよ! けれど、時代というのはおそろしいもので、この突拍子もないものがレコードに吹き込まれて出版されていたのですよ。『いる?いない?のひみつ』にはこのレコードジャケットの写真が紹介されていて、ブラウン夫人が大作曲家たちと交霊したことの証拠とされていました。

私は大学に入って、音楽なんかの勉強をしていたわけですが、時折、なにがはずみとなるのか、この霊媒ピアニストによるレコードを思い出すのでした。しかしその頃にはすっかり彼女の名前を忘れてしまっていたものですから、探すに探せず、調べるに調べられず、きっと一生わからぬままであろうと思われたのでした。

ところが、出会いというのは不思議です。私が修士論文のテーマに選んだグレン・グールドがやってくれました。彼の著作集にブラウン夫人のレコードに対する評が収録されているのです。その名も「ローズマリーの赤ちゃんたち — ローズマリー・ブラウン「交霊演奏会」(レコード評)」! いかすぜ、グールド。愛してるよ、グレン!

グールドの評に付された註釈によると、このレコードはPhilipsから出ていたらしく、その番号はPHS 900256、1970年の出版でした。グールドの評は微妙に屈折して複雑怪奇で、けどまあつまるところ夫人のピアノはうまくないといってるんですが、ともかくも私はこの情報をもとに調べてみて、ですが残念ながら、まだ耳にすることはかないません。

ローズマリー・ブラウンの作品(おっと失礼、作曲演奏はフランツ・リストでしたな)もさることながら、私はもう一度この漫画を読んでみたくて仕方がありません。どうにか買い戻したいと思って、せめてそれがかなわぬなら、新訂版でも構わないと思っています。

まさに、思い入れの深い一冊なんですよ。

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