2005年1月1日土曜日

ニワトリ号一番のり

新年明けましておめでとうございます。今年は酉年だということですので、ちょっと鶏に関係するものをご紹介しましょう。

『ニワトリ号一番のり』は、詩人としても知られているジョン・メイスフィールドによって書かれた海洋冒険もので、十九世紀帆船の旅というのがどういうものであったか、実に活き活きと描写する名著であります。今は船旅もさほどではないのでしょうが、なにしろティークリッパーの時代です。スエズ運河を使えば紅海から地中海までまっすぐ突っ切れるところを、アフリカは喜望峰まわりで二度赤道を越える長旅を余儀なくされました。その船旅の途中、事故により船を放棄せざるを得なくなった船員達が、ボートでの漂流の後に得るものとは —。ああ、これ以上はもうしゃべらない。だって、読む楽しみがなくなってしまいますからね。

ティークリッパーというのはなにかといいますと、中国からはるばるイギリスまで茶葉を運ぶ帆船のことなんですね。有名どころでいえばカティサークなんかがまさにそれで、ティークリッパー中のティークリッパーといっていいと思います。今ではウィスキーの銘柄で有名ですが、本来はお茶に関するものだったのですね。

さてさて、なんでウィスキーにカティサークの名前がついたかという由来を見ますと、

英国における帆船は発見と冒険、そして帝国時代を象徴するもので、中でも1869年進水のカティサーク号は、お茶を中国から運ぶティー・クリッパー・レースで大活躍し、世界最速の船として快速ぶりを発揮していた。

なんてことが書かれています。ティー・クリッパー・レース! そう、『ニワトリ号一番のり』の舞台こそは、このティー・クリッパー・レースであるのです。その年一番の新茶をイギリスはロンドンにいち早くもたらした船こそが勝者であり、莫大な報償と名誉を得たと聞きます。屈強な、一癖も二癖もある海の男達が、苦難に立ち向かい、苦境を乗り越えて勝ち取るものとは果たして名誉であるのか、それとも苦い敗北であるのか。そればかりは実際に読んで確かめていただきたいものと思います。

『ニワトリ号一番のり』は、冒険、競争、ロマンがこれでもかとつまった、傑作中の傑作です。出版されたのは1967年と、私が生まれるよりも前のことですが、今も買うことができるのですね。

こればかりは、福音館書店に感謝しなければなりません。絶版にするのは簡単ですが、それではせっかくの名著が埋もれたままになってしまいます。本にとってそれほどの不幸があるでしょうか。それを福音館書店は、四十年近くも供給体制を維持して、これはよほどのことだと思うのです。本に対する愛、その内容に対する自信がなければ、よくよくできることではないと思います。あるいは、こうして遇される本の力であるのかも知れません。よい出版者、それを支える読書家たちという理想的な状態が揃ってはじめて可能なこと、奇跡のようなことといってよいくらいのことかも知れません。

福音館書店は、そのラインナップも充実して魅力的ですが、その姿勢も実に良心的で、私が愛する出版者のひとつです。

  • メイスフィールド,ジョン『ニワトリ号一番のり』木島平治郎,寺島竜一訳 (福音館古典童話シリーズ) 東京:福音館書店,1967年。

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