2011年6月16日木曜日

横浜物語

 こいずみまりは、以前別の漫画を読んで、面白い人だなあ、結構好感を持っていたのです。だから『横浜物語』がはじまった時は結構嬉しくて、けどはじまってみれば、いまいちこうピンとこないかな? なんて思っていたんですね。なんか軽薄そうな男と、謎めいたどころではなく、ヤバい匂いがする女。最初は、過剰な親切心を剥き出しにしてくる、そんなタイプの女なのか? そう思ってたら、いや、どうも違うよ。男のこと一方的に知っている。なぬー、ストーカーとかそんな感じなのか? ということは、サイコスリラーなのか、この漫画? そう思ってたころが懐かしいですね。ええ、全然そうじゃない。むしろ、ちょっと不器用な恋愛の物語。今では、もうすごく楽しみにして読んでいます。

しかし、この漫画、徹底してるなって思うのは、この女、お隣さんの名前、いまだもってわからないんですね。主人公の男、南のことを彼女が知ってた理由。そのあたりも語られて久しいというのに、それでもいまだ名称不明。けれど、そのわからないところを残している。かなり近しくなりつつあるのだけど、肝心の名前、それがわかっていない。この微妙に近くて遠い距離感がいい味を出している、そう思うのですね。

しかも、このお隣さんがものすごく魅力的。ちょっとエキセントリック。なんか、思い詰めた末に大変なことやらかしそうな人だと思わせたところが、実は意外にちゃんとした人っぽくって、読むほどに好きになる、そんな感じなんですよ。普段はツインテールっぽくしてる髪も、ちょっとお出掛けとなれば後ろにふたつにまとめて、おおう、エレガント。昔、南と出会った時の彼女はまとめ髪に眼鏡。ちょっとした変化で、印象ががらりと違ってくるんですね。そしてその心情もまた魅力的で、南のことが気になっていた、そうした気持ちをずっと心に抱えている。いや、これやばいんじゃないか、そう思ったら、私ストーカーなんですよ南さんの。自分のこと、客観的に見てるんですよね。もちろん、こういうこというのは、ストーカーじゃないからこそなんですけれど、それでもストーカーじみているかも知れないこと、その状況に気付けている。ああ、ちっともやばくなんてない。むしろ、普通の女性じゃないか。ええ、こうしたエピソードの積み重ねが、名前もわからぬお隣さんの人となり、しっかりと伝えてきて、私はというと、すっかり引き込まれてしまっているのでした。

この話、このまま続けば、南とお隣さんがいい仲になって、南の傷心も癒えて、みたいになるのが普通だと思うのですが、けれどそう普通にことは運ばないんじゃないか、そんな予感もありまして、つまり、先がどうなるか、まったくわからなくって、すごく気になっているんです。連載の、次の回、さらにその次と、どうなるか、本当に楽しみでなりません。

  • こいずみまり『横浜物語』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2011年。
  • 以下続刊

引用

  • こいずみまり『横浜物語』第1巻 (東京:芳文社,2011年),76頁。

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