久しぶりの表紙買いでした。『薔薇だって書けるよ』。白黒の表紙の向こうから透けてくる薔薇が印象的で、どうしようか迷った末に買いました。同一のレーベルといっていいのかな、シギサワカヤの漫画『つめたく、あまい。』も発売されていて、出版者は白泉社、これは信頼してもよさそうだなと思い、購入に踏み切ったのでした。表紙に見えるヒロイン、彼女の眼鏡が魅力的だった、からではありません。けれど、ちょっとひねた感じとでもいいましょうか、変わりものっぽい雰囲気にひかれたのは事実であろうと思われます。
そして読みはじめて、表題作、若いライター八朔が一目惚れした点子に結婚を申し込む、そうした描き出しに、最初は夢のような恋愛ものなのかと思ったのでした。人形のように美しい点子、しかし蜜月が過ぎてしまえば、点子が普通の娘ではなかったことが段々に重荷になってくる。ただの世間知らずではなかった、ただの不器用ではなかった、しかしそれすらも最初は可愛いと思っていた八朔なのに、次第にうとましく思うまでになって、ともないその態度も冷たくなって、ああ、こんなに悲しい話であるとは思わなかった。まったくの予想外の展開に、しかし私はよりいっそう引き込まれていくのでした。
気になったことはあります。点子のキャラクター、ものすごく典型的というか、モデルとしたもの、その特徴を素直すぎるくらい素直に写して、いや、これは私の思い過ぎかも知れない。でも、ちょっとでもそう思ってしまったために、点子の魅力、なんでも真に受けてしまう馬鹿正直さや天真爛漫な振る舞い、それが少し褪せて感じられてしまったところはあったのですが、しかしそれでも充分に魅力的な娘で、そうした点子が夫八朔に気に入られる妻になろうと、どんどん誤っていくというところ、切なく、痛ましく、けれどそこで終わらなかった、その先があったことに、なんだか嬉しくなって、そしてじんとさせられてしまったのでした。
この作者は、人の気持ちの、愛情の、時に屈折して、時にうつろう、そうした様を描くのうまいのだな、そう思える一冊でした。一癖あるヒロインたち。その気持ち、愛惜の情は本当だと思う。その機微を伝える言葉、表情、それらはしみじみと迫ってきて、相手を愛おしく思っている、その気持ちがしんしんと伝わって、ああ、いいな、そう思うのでした。
点子の物語は、やっぱり夢のような恋愛ものであったのかも知れません。けれど、一度は離れた気持ちがふたたび繋がる、今度こそはもっときちんと向き合おう、そのような展開は、夢のようで、理想的で、しかしすごく真摯なもの。こうありたいな、恋を一時の感情として流してしまうのではなく、愛しながら、その気持ちを長く持続させたいものだ。そう思わせるものがあって、それはなにか読者である私でさえも素直にさせてしまう、そんな素敵なラストでありました。
- 売野機子『薔薇だって書けるよ — 売野機子作品集』東京:白泉社,2010年。
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