2010年3月14日日曜日

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

 私にはめずらしく話題の本であります。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』。20世紀の経営学者、ピーター・ドラッカーの経営管理論を高校の野球部に適用してみたらどうなるだろう。しかも、主役は女子マネージャー。マネジメントを勘違いして、ドラッカーの『マネジメント』に手を出してしまい、普通ならやっちゃった、全然見当違いの本買っちゃったよ! となるところが、これを野球部に応用してみようと思ってしまう。興味引くには充分といっていいギミック、ケレン味が逆に清々しいじゃないですか。でも、私、手をこまぬいて、なかなか読もうとせずにいました。いえね、実はこういう売り方、気に食わないんですよ。でも評判いいみたいだし、新聞書評にも載ったしで、じゃあ買って読んでみようかと思ったのでした。ええ、よってめずらしく話題書なのであります。

買ったのは紀伊國屋書店。なんかね、ポイントサービスを始めたっていうので、持ってても損するものじゃないからと、作りにいったんですね。そのついでに、ああ、じゃあ試しに買ってみるか。それが、この本だったんですね。でもって私は、趣味の本ならともかく、ビジネス書など実用書は本というよりも道具だと思ってるので、普段なら傷みなんぞは気にしないのだけど、これに関しては美本を探してしまいました。いやね、この美本探索作業、あまりにも病的気質があからさまだから嫌なんですけど、どうしてもやめられない。ええ、こういう気質が発揮されるところ、それが私におけるこの本の位置付けを物語っています。

私は本を読むのがめちゃくちゃ遅いです。しかし、この本に関してはちょいと違いまして、この本、小説の体裁をとっていますが、読み物はドラッカーの『マネジメント』を紹介するための方便、刺身のツマに過ぎません。だから、ものすごい速度で読める。面白いように、びゅんびゅん読める。でもって、題材の選択がいいなと思ったのですね。高校の部活動、経営という概念が普通入りこまない組織を取り上げて、しかも身近であるから自分でも考えながら読んでいくことができます。今、どうもドラッカーはブームみたいですが、キーワードを取り上げてわかった気にさせるようなハウトゥー本読むなら、これ読んだ方がずっとよさそうです。ドラッカー『マネジメント』からの引用があり、それを野球部に応用するにはどうしたらよいだろう。野球部という営利を目的としない組織において顧客とは誰だろう。頭の中に、あれじゃないか、これもいえるのではないかと思い浮かべながら読み進めていくと、この本における解釈が提示される。こういう、問い掛けに対する自分なりの答えを探すような読み方ができるというのは、なかなかに面白く、楽しいものでありました。

でも、これ、刺身のツマがちょいとまずい。いやね、これは本題じゃないんだから突っ込んじゃいかんとも思うんだけど、やっぱり物語の姿したものを目の前に置かれると、そこに物語を期待してしまうのが私という人間みたいでしてね、あまりにもうまくことが運びすぎる。いやね、これが現実だったら、女子マネージャーの分際で監督気取りかよとかいい出す部員が出てきたり、あるいは部内における権力闘争みたいなのおこりそうじゃない? いや、わかってるねんで。そんなことになったら『マネジメント』の実践どころじゃなくなるって。でも、話が部内にとどまってたうちはいいんだけど、外部に波及するほどにイージーさが目立ってきて、すべてが主人公の属する野球部にとって都合よく動きすぎるってのはどうなんだ。いや、わかってるんです、ここで吹奏楽部が、いくらコンサルティング受けた恩があるとはいっても、うちにはうちの目標があるんです、夏の頭には大事な吹奏楽コンクール予選があるんです。そういって抵抗しちゃ腰砕けだって。でもさ、私は学生時分、野球部ととことん仲の悪かった、むしろ恨みにさえ思っていた、そんな吹奏楽部員だったんだ。だから、周囲のあまりに理解のよすぎるところ、気に食わねえなあって思ってるみたいで、でもドラマをがつんと作ってしまったら、『マネジメント』どころじゃなくなるからしかたがないよな。都合よくここぞというところで死んじゃったりするのも、それでもって発奮したりするのも、しかたないよなって。これ、物語の展開としては禁じ手というか、やりがちだけどやっちゃいかんといわれてるもんの典型なんじゃないか。いや、まあ、昨今ではこれが禁じ手というの知らない人も多いみたいだけど、ドラマとかなんかでもよく見るもんね、こういうの。ええ、まあ、ちょっとどうかと思ったの! 描ききれない中途半端なドラマ、お涙頂戴なんてなしにして、単なる状況の提示に徹してくれた方がずっとよかった!

あくまでも刺身のツマにすぎない物語が、逆に足を引いちゃうっていうのは惜しかったかなって思ったのでした。でも、ドラッカーという名前を聞いたことくらいはあるけどよく知らない、ましてや『マネジメント』なんて読んだこともないという人が、いったいそれはどういうものだろうと触れる第一歩としてはいいんじゃないかと思います。こういう風に応用していけばいいよ。コンサルティング受けて、ひとつのケースに『マネジメント』を適用してみましょう、そういう説明受けたと思えばいいんです。まずはおおまかに感じをつかんでみる。そのとっかかりには適した本であると思います。で、次は、自分あるいは自分の属する組織において実践していく段階に進むというわけです。そしてその際には、エッセンシャル版でいいから『マネジメント』を読んでね、ってことなのでしょうね。

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