『境界線上のリンボ』は『まんがタイムきらら』にて連載されている漫画です。4コマ漫画であるのだけど、その感触はというとコマ割り漫画にも似ています。一昔前、ストーリー四コマという言葉がはやったことがありましたけれど、でもあれらともまた違う、独特のテンポを持って展開する、不思議な世界、不思議な街での物語です。舞台は、異世界との境界線上に存在する街、第七空洞市、通称リンボ。人とエルフのハーフであるヒロイン、フゥがリンボで出会う人たち、そこに生まれるエピソード。少し不思議で、なにか心に触れるもののある、そんなタッチが心地いい漫画です。
この漫画がはじまった時の印象は、今も覚えています。カラーページ、独特の雰囲気を持って表現される、けれどそれはどこかで見たこともあるような、そうした身近さも感じさせて、それはおそらくは、作者や私が育った環境、日本におけるファンタジー的なるものを、基盤として共有しているからなのだと思います。魔法と機械技術が共存している、そうした世界観は、ちょっとレトロな印象も持っていて、そしてどこか懐かしい。けれどその時点では、これからどうなるのか、面白くなるのか、好きになれるかまでは判断できませんでした。
開始してしばらくは、この漫画の魅力をつかめないでいた。それは仕方のないことかなと今となっては思います。なぜか。それは、『境界線上のリンボ』が、街の住人たちとの交流を通して世界を物語っていく、そうしたタイプの漫画であったからだ、そう思っています。フゥが出会う人たち。それは一癖も二癖もある、そんな人たち。普通の人だっている。けれど、私たち人とは少し違っている人もいる。錬金術師、魔法使い、犬に似た人たち、鱗のある人、そして妖精などなど。少しずつ違っている、けれどその違いを互いに受け入れている土地、それがリンボ。境界線の上にあるがゆえに、多様な人のあり様を許容する、懐の広い街、優しい街。そうしたリンボという街と、この世界の表情が、エピソードを積み重ねるごとに、いきいきと豊かさをもって広がっていくのですね。その広がりが、私の心に触れて、そして私を包み込むかのようにふくらんで、そうした頃には、もうすっかり好きな漫画となっていたのでした。
私のとりわけ好きなエピソードは、アポジーさんをめぐるものです。彼のキャラクター、そして思いもしなかった冒険、とてもいい。もちろん、アポジーさんだけが好きだっていうわけじゃない。ええ、この人はいいなって思える、そうした瞬間を越えるごとに、リンボという街も好きになっていく。この感触がとてもいいです。
で、ちょっとだけ蛇足ね。これ、どうも音楽のタイトルとか、あるいは人名とかもかな、それらから名前をとったりしてるみたいですね。最初、リンボって聞いた時は平沢進の『BLUE LIMBO』を思って、いやいや、考えすぎだろうよ、と思ったけど、『賢者のプロペラ』で確信した。多分、これもあれじゃないか、とか思うものいくつかあったりしますけど、それも平沢進に限らずね、でもこれらが特になにかを意味するわけでもないようだから、それほどには気にしないで、ただちょっとした楽しみとして見ています。ええ、まったくの余談でした。
- 鳥取砂丘『境界線上のリンボ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2010年。
- 以下続刊
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