小池定路の単行本が出るってよ。なんてことを知ったものですから、私はもう楽しみで楽しみで。小池定路という人は、イラストレーターといったらいいのかな? 例えばゲームでいえば『終末の過ごし方』や『対局麻雀ネットでロン!』、挿絵なら最近アニメにもなった『大正野球娘。』。私、この人の絵が好きでして、やわらかではなやかで、しっとりとして、おだやかで。出会うたびに、ああ、いい雰囲気だなって思っていたんです。だから、漫画を描いてらっしゃると知ったときには、ちょっと興奮した。すごく楽しみにしていて、そして単行本。手にしたときには、なんだか嬉しさがこみあげてきたほどでした。
でも、表紙のイラスト、それがちょっと意外でしてね。今まで、私が抱いていたこの人の絵のイメージ、それとちょっと違ったものですから、もし単行本が出るよ、魔法少女ものだよって事前に知らされてなかったら、見過ごしにしてしまったかも知れないなんて思うくらいに意外でした。すごくシンプルな絵。塗り方が違うのかな。これまで見てきたものは、水彩を思わせるような淡いものであったのですが、『魔法少女チキチキ』の表紙に関しては、ペタっとしたアニメっぽい塗りと感じたものだから。それにキャラクターの造形もいつものイラストとは違っていると思ったものですから。そんな理由で、雰囲気が違ってるなんて思ったのかも知れません。
けど、本編にはいってしばらく読めばすぐに馴染んでしまって、やっぱりね小池定路の絵だなって思うわけですよ。これまでにカットや設定イラスト、あるいは下書きに見てきた雰囲気、ちょっとシンプルめにデフォルトされた絵の感触が確かにありまして、そしてまた、これまでに触れてきたこの人のコミカルな表現、それが確かにありまして、しかもそういったものが広がりを持って展開していく。それは面白く、楽しく、諧謔の味を深めながら、時に静かに心に触れて、アンニュイややさしげな感じ、そしてあたたかさを持って、ああ素敵な漫画だなと思わせてくれました。ああいいなあと、そうした思いが自然とわいてきたのです。
この漫画は、主人公、ひとり暮らしする大学生のもとに魔法少女がやってきて、居候する。そうしたものであるのですが、典型的な構図にすっきりさっぱりした描写がマッチして、なんだかすごくおかしいんです。すごくおだやかなふたり。そして、とてもあたたかなふたり。親しみをもって接している、けれど他人である、そんな関係。いい相棒って感じでしょうか。海外のドラマで仲のいい人間が一緒に暮らしているようなコメディってありますが、そんな感じといったらいいのかな。困った時には助けあい、支えになってもらったり、けれどもたれあったりはしないで、ひとりひとりそれぞれにちゃんと独立自立している。ほんと、いい関係だなって思います。
そんなふたりを取り巻く人たちもまたよくて、主人公とお付き合いすることになったお嬢さん、春香。すごく素敵な人。けれど、完璧ではない。うちに抱えているものがあったりする。そしてそれは春香の妹美香や、いとこの真一、主人公良行、その友人小河にとっても同様と思われて、皆がそれぞれに独自の世界を持っているんだなと感じさせるような存在感があるんです。前向きになれる力を持っている。後ろ向きに立ち止まらせる怖れ、弱さを持っている。それはとても自然なこと。そして、その自然でもって皆が関わりあっている。その関係の中から生まれる感情、気持ち、思いが、とても心地良いんですね。時にチキチキが魔法で手助けしたりする。けれど解決はしない。そっと手をさしのべて、応援するかのように魔法で手助けしてくれる。解決は、問題を抱える当人がすることなんだろうなって、そしてきっと彼らは歩きはじめて、私はそうした姿に、ああ彼らもまた生きていると感じる。そうした時に、とても豊かなものを感じるんです。
私が漫画でも小説でも、また他の表現でも、そうしたものを見て、読んで、聴いて、いいなと思うのは、送り手のうちに広がる世界に触れることができるからだと思っています。『魔法少女チキチキ』には、そうした世界の息衝きが確かに感じられて、とてもよかったです。世界がその存在を自ら物語っている。そうした感触が私を嬉しくさせてくれるのでした。
- 小池定路『魔法少女チキチキ』第1巻 (CR COMICS DX) 東京:ジャイブ,2009年。
- 以下続刊
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