2009年11月22日日曜日

ヴォイス・トレーニングの全知識

 このあいだ、録音してみたのはいいのだけれど、 その結果に少々落ち込みましてな、なんというんだろう、現実は常に想像している以上に厳しいのであります。てなわけで、ちゃんと基礎をやろうと決意して、友人になんとかならんかねと泣き言いってみたら、自分はこの本を持ってるよと一冊紹介してくれました。それはリットーミュージックから出ている『ヴォイス・トレーニングの全知識』。リットーか、なら大丈夫かな。ギターやるようになってから、リットーミュージックの教本買うことが増えまして、結構信頼できる出版者だなという印象なんですね。というわけで、買ってみました『ヴォイス・トレーニングの全知識』。

いや、しかしですよ、友人の持ってたのが『地獄のボーカル・トレーニング・フレーズ』でなくてよかったです。もし地獄本だったら、私の未来はメタルモンスターでした。デス声でシャウトする。もっとワイルドに! いきつく先は宇宙の真理でした。危ないところでした。

『ヴォイス・トレーニングの全知識』、まだ実践してみるには至っていないのですが、とりあえずざっと見てみたところ、技術を教えたり、トレーニング課題を与えたりするような本ではないという印象です。むしろこの本は、心構えとでもいいましょうか、実践の前に心得ておくべきことが書かれているといった感じです。

よい声というのはどういうものなのか。巷に溢れる声、たとえそれがプロといわれるものであっても、本当によい声といっていいものは少ないのだ。ああしたものを目指してはいけない。ただ高い声が出るだけ、そんなヴォーカリストには意味がない。ならば、どんな声を目指すべきなのか。すなわちよい声とはどういう声であるのか。そうしたことが常に語られているといった印象です。以上のような説明があり、そしてトレーニングは開始されるのですが、そのトレーニングというのはかなりシンプルなものです。だから人によってはこれをただただやっちゃうんじゃないか。けれどただ書いてあることをやればいい、そのとおりに歌えば大丈夫ではないというから難しい。実際、書いてあるとおりに歌うだけなら簡単です。けれど、そのフレーズで学ぶべきことを意識してやるとなると、ちょっと楽じゃないよな。というか、独習でできるものなんだろうか。自分の進めているやり方が間違っていたら? 一度間違った舵取りをしてしまえば、ゆきつく先は大きく目的地からそれてしまうわけで、だとしたら時間を無駄にしてしまうばかりか、修正するのも大変ということにもなりかねない。簡単じゃないな、本だけでどうこうできる問題じゃないな、というのが現時点における素直な感想です。

この本に書かれていること、それを素直にすべて受け止めることもまた難しいなと思えるところがあって、それが極端に現れたのは私にとってはビブラートなんですが、私はビブラートが過剰なのは好きじゃないんです。誰だったかな、ジーグルト・ラッシャーだったかな、がいってたことなんですが、ビブラートは料理に加える塩のようなもので、塩の味を感じさせたらそれは多すぎるということだ、っていうような格言がありましてね、その言葉に従えば、昨今のビブラートは味付けが過剰なんじゃないかって思えてしまうわけです。実際、古楽ではビブラートはかけない、かけたとしても抑制されたものであるわけですけど、じゃあそういった表現は物足りなのかといわれれば、いやいやそんなことはない。とても美しい。そうした美しさに触れてみれば、現代ののべつまくなしにビブラートがオンになってるっていう状況には疑問が一杯になって、だからビブラートはかけない方向でやっていきたいものだと思っているのです。ところが、この著者にとってはビブラートは当然かかっているものであるようで、確かにうまいビブラートは効果的です。でもさ、高音に向かえばピッチの揺らぎが半音くらいにまで達するとくれば、やっぱりそれってやりすぎなんじゃないのかなと思ってしまうわけです。まあ、現実的にはそれくらいになってるよなって思いますけど、すなわち著者もいうとおり、ビブラートもノンビブラート同様程度問題なんだと思うんだけど、だから直に話せば、ああ、そうですねってことになるのかも知れないけれど、本で読んでるかぎりではちょっと納得できない。そういうことがちょくちょくあるのは、習おうという人間としてはちょっと困ることでもあります。

とはいえ、イメージをきちんと持ちなさい。表現したいよう、最初は好きにやってみて、それから楽譜どおりにやってみなさい。自分のイメージと実際の声や音楽の状況を擦り合わせて、イメージどおりにできるようにしなさい、などなど、確かになるほどそうですねと思うことも多いわけで、そしてこれらはわかっているつもりで、けれど実際には忘れがちなことであるんですね。だから、一度意識の総点検をするつもりで読んで、そしてトレーニングの意図をよく理解した上で、取り組んでみるのがよいのではないかなと思っています。

けど、多分、私はこの著者の理想とする方向には向かえないと思う。きっと途中で、違う道に向かってしまうんじゃないかな。なんて予感がしています。

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