2009年11月1日日曜日

とらぶるクリック!!

 過ぎ去りし10月は好きな漫画とお別れする、そんな月でありました。最終巻ラッシュとでもいいましょうか、好きだった漫画の完結巻が一度にリリースされて、『アットホーム・ロマンス』が終わりました、『まん研』が終わりました、そして『とらぶるクリック!!』が終わりました。人を捨てるなら九月といいますが、漫画と別れるなら十月、なのでしょうか。けれど、終わることは寂しいことだけれど、こうして終わりにまでたどりついたこと、その終わりの円満であり幸いであったこと、それは大いに喜ぶべきものであると思います。ああ、だから私はここに喜びを高らかに告げたく思います。

『とらぶるクリック!!』オワタ\(^o^)/

 私は当初『とらぶるクリック!!』を見誤っていたのでした。最初の数ヶ月、あるいは一年以上も、この漫画を読もうという時には、心を石のようにして、頑なに対していたものだから、面白さに触れつつも、それを認めることができずにいて、その自分の態度については今思い出しても釈然としないものが残っている、後悔の気持ちを拭えないくらいなのです。そして、これはひとつの教訓になったのでした。私は、新しい漫画、新連載にせよゲストにせよ、そうしたものに触れる際には、なるたけよいように見ようと、敵視するような、軽視するような、そんなことはすまいと決めているのですが、それは『とらぶるクリック!!』の経験があってのことなのではないかって、振り返って思うことがあります。

『とらぶるクリック!!』が終わって、後書き読むと、その時々にテーマのようなものが設定されていたとのことですが、けれどもしその全体について私ならどう思うだろう、自問してみたら、スタートという言葉にいきあたりました。『とらぶるクリック!!』は、スタートするということを描いてきた漫画なんじゃないかって、そんな気がするんですね。

 スタートする。出発する、開始する。『とらぶるクリック!!』の主役たち、一年生4人にとって、PC部はたくさんのはじめてを経験できた、そんな場なんじゃなかったろうかって思うのです。そうした面が一番に押し出されていたのは他ならぬ杏珠で、PC部に入って、はじめてのPC、はじめてのインターネット、彼女の世界は一気に変わりました。さわるだけで機械という機械を破壊してしまう杏珠にとって、それまで望みながらも得られなかったもの、それを手にした時の思いはいかほどだったでしょう。新しい世界に触れ、わくわくするできごとに出会って、そんな杏珠の気持ちのさざめきは読んでいる私にも伝わってくるように思われて、ああ、そうだ、はじめて知ること、経験することっていうのは、もう心が浮き立つようで、楽しい! 面白い! 落ち着いてなんていられないものだよね。そんな気持ちを思い出させてくれた、それが杏珠であったと思います。

 柚もなつメロもPC部に入ったことで、たくさんのはじめてを経験することとなるのですが、人見知りの柚は友達づきあいにおいて、なんだか意固地だったなつメロも、杏珠のペースに巻き込まれることでどんどんその人当たりを違えていって、彼女らにしてもだんだんに世界を広げていったんだろうなって思った。杏珠、茉莉のふたりが持っている空気。その親しみは、柚を、そしてなつメロを加えて広がっていって、いつも部室で遊んでいる、けれどそうした遊びから広がっていくものもあった。また、部活の枠からはずれての活動においても開かれていくものはたくさんあって、そのたびにまごまごしながら、けれどなんとか立ち向かっていく柚、なつメロの姿がまぶしかった。結局柚は、完全に人見知りを克服することはなかったけれど、でもそれでもいいんだと思う。誰だっていつまでたっても苦手ってものはありますもの。けれど、それでも少しずつでも踏み出せる、そんな可能性を持っている。可能性を眠らせながら、折りに少しずつ目覚めていく。それは、柚にも、なつメロにも、そしてもちろん杏珠、茉莉にもいえることだったと思います。皆が、各人各様の可能性を開いていって、その時気がついたものに気持ちを新たにしている。知るということは、いつだってなんてワンダー。そうしたエピソードが連なって、『とらぶるクリック!!』という漫画の雰囲気は編まれていったのだと思っています。

『とらぶるクリック!!』最終巻にはその後が少し描かれて、新たな部員を迎えるエピソード。最初の、ちょっと長かった杏珠たちの一年間、そこで彼女らが出会い、経験してきたようなはじめての体験、可能性が少しずつ開かれていく、そんなできごとを、新入の彼女らもまた辿っていくのでしょう。それはまた一年目とは違う、新しい可能性を見せてくれるに違いない。そう思わせてくれるもので、また杏珠ら新上級生たちも新しい経験をしていくでしょう。ああ、彼女らの新しい一年がはじまる。その様子を私は見ることはできないけど、でも彼女らならきっと大丈夫さ。そんな予感がして、だからベタながらも最後にこういいたい。

最終巻にして、『とらぶるクリック!!』始まったな。ネガティブにではなくポジティブに、文字通り前向きにそういいたいと思います。

引用

  • 中島みゆき『船を出すなら九月

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