私ははやりものというのが好きではありません。これはとにかく昔からの習い性で、モーツァルトイヤーにはモーツァルトを聴かず、今やジブリ映画を見ることもなくなって、こんな私ですから、当然『千の風になって』も聴かなかったんです。話題になって、ブームにもなって、いろいろなメディアで展開もされた歌、というか詩というべきですか? 私には、そうした話題沸騰ぶりがどうにもついていけないものと感じられてしまったようで、全曲をはじめて聴いたのは去年だったか一昨年だったかの紅白歌合戦というありさまです。しかし、この一方的な敵視とでもいいましょうか、そうした状況からやっと抜け出すことができましてね、なにがきっかけかというと、岩崎宏美ですよ。岩崎宏美のカバーを聴いて、いい歌だなと思った。いや、秋川雅史が悪いなんて思ってませんよ。ただ、はやりに対してあまりに嫌悪を露にしすぎました。そのせいで、ちゃんと聴いてこなかったのかも知れませんね。偏見というのは、とかく人を駄目にするという話でした。
で、一方的に和解して、どうしたかというと、ほら、最近サックスを吹くようになったっていってましたけど、ウォーミングアップないしはリハビリにこの曲がいいんですよ。ゆっくりとしたテンポで、ゆったり、たっぷりと歌う。そうした曲調が、大きく息を吸い、大らかに吹く、吹奏楽器の基本ですよね、そうした練習に実によくって、しかもうまいことに、オカリナやってる母が、この曲の楽譜を持ってたんですね。いやあ、人気のある曲だけあって、楽譜入手が楽、というか労せず手元にやってきて、ありがたいことこのうえないです。
基本は実音in Cで吹いて、けれど適当に移調しながら、低音から高音まで満遍なく網羅するようにして、そうしてると結構楽しくなってきて、これ、営業にいくときにはぜひ演奏しよう。そんな気持ちでいっぱいで、ただ問題は仕事があるかどうかなんですよね。なので、知り合いにお願いしているところ。年明けくらいから具体的に動けると嬉しいなあ、なんて勝手にいってるけど、そうは問屋がおろさんでしょう。とりあえず今は返事待ち。でさ、仕事がうまくもらえるようなら、ソプラノサックス買うよ! いやあ、あの真っ直ぐなのがかっこいいん
ですよ。私の心のようにねっ
。って、冗談みたいなこといってますけど、私の今のサックス熱に『うらバン!』は少なからず関係しています。
けど、その私の愛器は、現在修理中。いやね、昨日吹いて、片付けようと思ったら、ベルの中になんかごみみたいのがありまして、引っくり返して取り出してみたら、なんとコルクですよ。ああ、どっかのコルクがはがれたんだね。あちこち見回して、ああ、ここか。サイドのCキー? そこのコルクがはがれてしまっていたんですね。
そのコルクはなくても演奏には支障はないのですが、そのままにしてると楽器の管をいためてしまうかもしれないら、早めに修理したほうがよさそうです。なので、私にしては異様なスピーディさを見せて、なんと今日楽器店に持ち込み、リペアの依頼をしてきました。しかし、修理はコルクだけではすまないでしょう。なんといっても数年仕舞い込まれていた楽器です。それ以前に、十年以上使ってきた楽器です。タンポ(孔を塞ぐパッド)の交換も必要だろうし、あちこちのコルク、フェルトも駄目になってるかも。となると、タンポ、コルク、フェルト全交換、ほぼオーバーホールコースだろう。予算は、まあ五万を下ることはないだろう……。覚悟を決めて見積りしてもらったら、四万円以内とのこと。タンポを全交換するまではいかなかった。いやあ、ありがたい。けど、どうせやるなら万全にしてもらいたいと思ったから、費用はオーバーしてもかまわないので、存分に腕を奮ってくださいとお願いしてきました。
かくして私は相棒としばし別れて、『千の風になって』の出番もしばらくないかと思いきや、ギター抱えて、歌うことにしました。私はオペラ歌手でも声楽家でもないから、秋川雅史みたいには歌えないけど、それなりにしみじみと歌っています。そうしたら家のなかが暗くなるのね。あかん、あかんわ、ともちゃん!
かくして、私のレパートリーに別れたり死んだりする歌がまた増えそうなのでありますよ。
新井満
秋川雅史
引用
- 都桜和『うらバン! 浦和泉高等学校吹奏楽部』第1巻 (東京:芳文社,2008年),107頁。
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