2008年12月29日月曜日

J. S. Bach : Suite No. 1 pour saxophone seul

Musical score先日、久しぶりにサクソフォンを吹く気になったといって、リードを買いマウスピース・パッチも買い、そうしたら楽器に軽微な故障が発生して、楽器店に入院。その時に見かけたソプラノサックスに一目惚れ、そして今日、具体的な商談をしてきました。じゃなくて、楽器を受け取りにいってきたのでした。ついでに人に会う約束もしていたので、見切り発車で店にいったら、まだ仕上がっていないってことだったので、時間をつぶすべく楽譜売場をぶらっとまわって、そして一冊買いました。バッハの組曲一番。チェロのための、無伴奏のものなのですけど、サクソフォン用に編曲されたものがあるのですよね。復帰するにあたり、この曲にとりくんでみようかな、そんなことを考えたわけです。

この曲は、私が短大でサックスを学んでいた時に、練習課題として渡されたもので、それから数年に渡り吹き続けたから、それはそれは愛着のある、思い出も深い曲なんです。渡されたその時は、原曲はどんななのだろうと、図書館から原典版を借り出して、かたっぱしから編曲されてる部分を消し、オリジナルに似るように戻していった、こういうところ、私の性格がわかるんじゃないかと思いますが、そしてそれからはわからんまま吹いて、あれこれ試行錯誤して、チェロの演奏もいろいろ聴いてみて、楽譜どおりに吹かない、スラーと書いてあるのを無視してデタシェで吹くようになって、やっぱこれがいいなと納得するところを見付けたのでした。そうなるまでに何年かかったんだろう。少なくとも短大は卒業して、つまりは学部時代であると思うのですが、いやどうだろう、下手したら院にあがってるな。とにかく、長く吹いてきた曲であるんですね。

知り合いでプロモーションだかマネジメントだかをやっている人がいましてね、その人が24時間テレビの仕事をとってきたことがあるんです。読売テレビの社屋でやるイベントステージ、そこで演奏しておくれよといって、誘われた。もちろんそれはイベントのものだから、テレビに映るかどうかはわからない。けれどもしかしたら映るよと。そして私は、いうても専攻生だったわけだから、そのカメラが来るという時間にあわせてスケジュールを組んでくださったんですね。

あの時は、面白かった。ステージにあがると、徹夜明けなんでしょうね、若者が観客席となったロビーにごろごろと、あたかもダイインでもするかのように多数横たわっていて、まいったな、苦笑しながら音出ししたら、それがもう気持ちよく響くこと響くこと。天井の高い、その天辺に向って音が伸びていくようで、うわあ、気持ちいいなあ、終始そう思いながら吹いて、ステージを掃けたら、みんなからよかったよよかったよといってもらえて、思い返すごとに、あれが私の頂点だったと思う。というのはどうでもいいんですが、その演奏している最中にカメラがきたんですよ。建物入口あたりがざわつきはじめて、あ、カメラがきたな、そう思った瞬間、さっきまで屍のようだった若者たちががばっと跳ね起きたかと思うと、一目散に駆け出していって、その行き先を見ればアンパンマンの着ぐるみ。カメラはアンパンマンとむらがる若者たちを映し続け、ついぞステージにたどり着くことはありませんでした。

まあ、そりゃそうだろう。なんてったって、アンパンマンは全国区だもんな。

それまで使ってきた楽譜は、コピーしたものだったのです。学生のころは金がないから、なんていうけど、今となってはやっぱり買うべきかな、そう思って、遅蒔きながら購入したのですね。まっさらの、なんの書き込みもない楽譜。正直、これで吹くだなんて考えられないような白さなのですが、ええ、やっぱり楽譜とは、楽譜そのものも宝であろうかと思いますが、それ以上に、そこに書き込まれてきたもの、それが大切であるのだと感じ入る次第でした。書き込みとは、試行錯誤の記録であり、失敗と成功の結果であるのです。年月をともに積み上げてきたものがそこにはある。書き込みのある楽譜は、代え難い、私だけの、おおげさにいうなら、戦友のようなものなのだと思うのですね。

だから、私はこれから選択を迫られるのでしょう。新しい楽譜を前に、新たな積み上げを始める、これがひとつ目。もうひとつは、コピー譜から必要な書き込みを転記する。そして最後が、原譜は買って持ってるといいはることにして、これからもコピー譜を使い続けるというものですね。

どれにするかは、これから決めます。まあ、二番から始めて、一番、つまりさらなる積み上げをしていく、ってことになるのかな、そんな気がしています。

  • Bach, J. S. Suite No. 1 pour saxophone seul. Transcripted by Jean-Marie Londeix. Paris : Henry Lemoine, 1963.

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