2008年12月4日木曜日

とめはねっ! — 鈴里高校書道部

  ペン習字に取り組み中、昨日そんなことをいっていましたが、文字を書くということの面白さに関して、皆さんに紹介したい漫画があります。といっても、おなじみ『とめはねっ!』なんですが、高校書道部にて、筆紙硯を相手に青春を燃焼させる漫画 — 、いや、ごめん、ちょっと嘘。燃焼なんていうほどではないと思う。むしろもっと静かな情熱みたいなものがあって、書とは自分にとってどういうものであるのだろうと向き合いながら、その距離を縮めていこうとする、そんな感じが妙に気になる漫画なのであります。

しかし、第4巻を買ってみて、その縮みゆく距離というのが、人対書道だけでなくて、少年対少女という様相も見せてきたからちょっと驚きました。いやね、第3巻までも、ヒロイン望月結希に接近する男子にちょっとやきもきして見せる主人公大江縁という構図が見られましたが、第4巻ではなんと逆です。ユカリに接近する女子が出てきて、今度は望月が面白くない。心ここにあらずといった感じ、とまではいかないんだけど、掛け持ちしている柔道部で結構な成功を収めても、なんの感興も起こさない。むしろ書道に、あるいはユカリに心を引っ張られているような描写が目立って、おお、えらくボーイ・ミーツ・ガール色が強くなってきたぞと、日野ちゃんならずともちょっと色めいてしまう展開なのであります。

しかし、たとえ恋愛ものとしての色が目立って強まってきたといっても、『とめはねっ!』は書道漫画。篆刻にチャレンジし、書道の大会への出展に思い、悩み、迷い、その結果、書道というテーマにおいては、多様な字のあり方が浮かび上がり、そして彼らのドラマにおいては、青春の戸惑いといった要素が見えてくる。ふたつのテーマが同時に進行し、同時に深まるという、本当にうまいな、面白いな、そんな展開がこれを読む私の心をくすぐってやまないのですね。

青春の要素に関しては、望月の腕挫十字固なんてむしろご褒美じゃねえか! などと言い出しそうな気配があって危険なので割愛して、習字についていいますと、ふたりいる主人公格、ユカリと望月が、だんだんに自分にとっての字を書く意味に近づいていっているという、その感じがたまらなくいいのです。特に望月だと思う。字の汚いのがコンプレックスだった。字をきれいに書けるようにと思って書道を始めた。なのにその思いが果たされない。それが迷いの根本にあって、しかしちょっとした気付きを与えられて、迷いが消えた。そのプロセスが見事、しかもそこには前述の青春がしっかり入り込んでいるというのですから、やっぱりうまいなと思うのですね。

対して、ユカリ。彼の字は祖母ゆずり、それはそれは端正に書くから、まったく望月とは方向性が違っているのだけれども、しかしただただ能書への道を歩むかと思われたユカリが、思わぬところで迷い道にはまり込んで、そうなんですよね、字というものは見ていれば書けるというものではなくて、ある程度その書き方を知らないと書けないんですよね。とはいえ、ユカリのストーリーはこの巻では語られず。次巻に持ち越しであります。ええと、第5巻は、2009年初夏予定か。あと半年、ぐわあ、ちょっと待ちきれないよ! あ、そうそう。書において迷い道に入り込んだユカリですが、同時に青春における迷い道にはまり込んでいるのも面白いところで、この、ふたつのテーマが同時に進行するというところ、実に微妙で面白い。ユカリも望月も青春的要素にはとかく鈍くできているから、おおむね書道方面への取り組みがクローズアップされて、ああもう、やきもきさせられるなあ。でもそのやきもきが楽しいのだから、この展開はむしろオッケーであります。

あ、そうそう。5巻の楽しみといえば、彼らが取り組んでいた書道の大会、書の甲子園ですが、今まで意図的に隠されてきた望月の選んだ言葉、彼女のこの夏一番の感動、それが明かされるのも待ち遠しい。ユカリが書いたのは『雁塔聖教序』でありますが、その成否も気になりますが、やっぱり望月の書が楽しみです。といいながら、まさかこの書をもってこれまでの展開を小綺麗にまとめて、最終回! なんてことはないですよね。実はちょっと怖れているのであります。

いやね、なんか最近、そんなことがやたら多いからさ……。『ヤングサンデー』休刊にも負けず、『スピリッツ』移籍を果たしたくらいだから、大丈夫だと思うんですけれどもさ……。

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