手違いから男子寮に入ることになった女の子、葉山ひろむをめぐるどたばたの楽しい『Boy’sたいむ』ですが、この漫画に問題があるとしたら、男子として生活しているひろむの方が、女子モードのひろむよりも可愛いってとこなんじゃないかなあ、なんて思うのですがどうでしょう。ショートヘア、眼鏡で少年っぽいいでたち。ベースにある女の子っぽい思考、行動様式にこれら要素が加わることで、実に中性的な感じになっていましてね、そして極め付けは一人称が僕ってとこでしょうか。いやあ、これは実際置島が迷うのも仕方がないよって、うんうんうなずきながら読んでいます。
置島ってのはですね、ちょっといい男で女のコ大好きというそんな少年だったのですが、本来ならいけ好かないポジションである彼がですよ、なんでそういうことになったのか、ひろむのちょっとしたしぐさにドッキリとして、迷う。自分が倒錯しているのではないかと迷い、けれどそれでもひろむに迷い、さらに2巻ではまた違った嗜好をも開花させ、一体作者は置島をどうしようというんだろう、なんてこと口ではいいながら、本心ではやれやれもっとやれと思ってるんだから、それこそ『バーコードファイター』よろしく、俺、男のひろむが好きなんだ!ってな感じの展開をわくわくしながら待っている節があるものだから、ほんと自分のことながらたいがいだと思います。
さて、女の子なのに性別を偽って男子寮に暮らすというひろむの物語。寮生は三名、先ほど紹介しました倒錯美少年置島にむやみやたらと体育会系の寮長、そして女ひろむに思いを寄せる龍太郎。それぞれがそれぞれにちょっとずつ違った描かれかたしてるから、うまくコントラストが出て味になっています。特にコントラストは置島と龍太郎に顕著で、方や美少年、方や少年。方や繊細、方や粗雑。方や男ひろむLove、方や女ひろむLove。ってな感じで三角関係!? かと思いきやひろむが全然そんな風じゃないから、両者ともに片思いなところがありまして、その振られっぷり、そのかみ合わなさも味のひとつであります。とかいいながら、ひろむもちょっと意識してない風でもない、まあうまく盛り上げてくださるわけですな。
ひとり上でピックアップされなかった寮長、この人の位置はまた独特で、その男らしさに対するストレートな猛進ぶりでひろむをはじめ寮生全員巻き込んで大変なことにしてしまうという、そういうキャラクターであるのですが、なかでもひどく巻き込まれるのはひろむで、女だというのに男らしさを身に纏うというか……、けどこうしたちょっと理不尽な目に合わされる女の子がヒロインで、なのにこうして楽しく読めるというのは、やっぱりひろむがやられっぱなしじゃないからだと思います。し返すときにはちゃんとやり返すしたたかさを持っていて、いわば対等ですな。決して負けっぱなしにはならない、負けるとしたら寮長が天敵だけど、それはなにしろひろむだけじゃない。寮生みんなが平等にひどい目に遭ってるから、やっぱりひろむは彼らに対等なんだと思います。そういうスタンスが、読んでいて理不尽を理不尽に感じさせず、からっとした(?)、ちょっと爽快さもある雰囲気のもとになってるのかと思います。
ところで、やっぱりこの漫画、将来いつか終わる日がくると思うのですが、その時にはひろむが女であったことがばれたりするのかな……。望むべくは、ひろむを男と誤解したまま置島とゴールみたいな、そういう変なカップルみたいになって欲しいものだ、とかいいながら、その実本心ではこうした微妙な距離を維持したまま、つまり恋愛成就みたいなのとは縁のない終わりが一番望ましいだなんて思ってるんだから、ほんと、私ってやつはわがままにできているわけですよ。
参照
『バーコードファイター』における台詞、オリジナルは以下のとおり:
わいが……。わいがす…、好きな桜ちゃんは……。桜ちゃんは……、男なんや!!! わい、男の桜ちゃんが好きなんや!
- 小野敏洋『バーコードファイター』下 (東京:ブッキング,2004年),473頁。
実に屈指の名台詞であります。
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