2007年7月3日火曜日

乙女ケーキ

 百合なんて一過性のブームに過ぎなかったんじゃないかと思っていたこの頃。けれど、それでもこうして新たに出版されるものもあり、ちょっと一安心。というのは、私はこうした色合いを持つ漫画が好きだから。この傾きはブーム云々以前からで、だから百合がブームになったときにはそれを素直に喜びながらも、潮が引くとともにせっかく育ったものまでもろともに押し流してしまったりしたら最悪だと怖れもした。けど、『コミック百合姫』はけなげに続いているみたいで、百合自体もブームは落ち着いたみたいですが、ひとつのジャンルとして定着してくれた模様。本当にありがたいことです。

ありがたいついでに買い支えようといいたいわけでもないのですが、タカハシマコの『乙女ケーキ』。書店で見かけて、なんの躊躇もなしに購入。落ち着いた色調ながらも華やかな表紙、けれどそこに漂う陰鬱なイメージが読む前からなにか期待させてくれて、そうしたら掲載一作目からかなりいい感じ。可愛らしく華やかな女の子たちの、じゃれあうような心の行き合いの影に鬱屈したコンプレックスがかいま見られる……。この、コンプレックスやエゴが美化されるでもなくあらわにされて、切ないやらなんやら、けれどこうしたネガティブな感情さえもすくい取って美しさに変えてしまう、そんなところがすごく好き。やっぱり女の子は特別なんだと思わないではおられないのであります。

けど、漫画に出てくる女の子は美しい夢だからな。特にタカハシマコの描く女の子はそうだと思う。この人っぽい表現でいえば砂糖菓子みたいな甘さがあって、砂糖の甘さがとげとげしさや苦さを覆い隠してくれるんだよ。なんて思いながら、けれど人が百合ものに引かれたのは、そうした美しい夢を欲する気持ちがあるからなんだと思います。不安も揺らぎも重苦しさもすべてをひっくるめて美しく変えてくれる、いびつな願いが生み出す不均衡な美がそこにあるように思えて、ネガティブでメランコリックでセンチメンタルでエゴイスティックで、けれどそうした感情をぱっとはらしてくれる明るさがさす瞬間が美しくいとおしい。夢なんだけど、幻想なんだけれど、それでもその美しさに心とらわれることがある。いびつと思いながら、欲してやまない気持ちがあるのだと白状しないではおられない美しさがあるのです。

  • タカハシマコ『乙女ケーキ』(Yuri-Hime COMICS) 東京:一迅社,2007年。

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