世の中にはいろんな本があるというのはいうまでもなく当然のことで、知ってみれば、へー、そんなのまであるんだと驚くようなのもあるんですよ。例えばそれは、私にとっては『架空地名大事典』で、これ、図書館司書の資格を取ろうと勉強していたときに知った本なのですが、まあ書名を読めばわかりますよね。架空の地名が列挙されている本です。この本、出典を記すにとどまらず、結構詳しいデータまで載っている(それもあたかもその地が存在しているかのように!)のだからまたびっくりで、手もとに一冊あっても面白いだろうなと思ったものでした。まあ、買ってはいないのですが。
これ、大きな図書館(特に図書館学を学べる大学図書館など)には所蔵されている可能性が高くてですね、なんのためにあるかというと、地名について聞かれたときのため、リファレンスツールとして蔵書されているのですね。実際、聞くほうはその土地が存在しているしていないなんてわからないわけですから、図書館としては存在する地名、架空の地名双方に対応できるよう備えているのです。
図書館司書課程を経験された方ならわかると思うのですが、実習があるのですよね。例えばリファレンス。いろいろな問い合わせ例が出題されて、さあ諸君、答えたまえ。ただし、自分の知識で答えてはだめじゃぞ。きちんと典拠を示さなければ失格じゃ。答えはすべて図書館にて見つかるであろう! とやられる。で、その問題の中に罠があるんですよ。ケア・パラベルってどこにある都市であるか、なんてのが普通に紛れ込んでいて、ここで、ああ地名だから『世界地名大事典』で調べようと思ったらドツボにはまります。ええ、ケア・パラベルは現在映画化もされて大人気の古典文学『ナルニア国ものがたり』はナルニア国の首都であります。だからこういう場合には迷わず(いや迷ったとしても)『架空地名大事典』にたどり着かなければならないというわけ。架空地名の可能性に気付かないと、延々世界地名地理関連のリファレンスツールから脱することができずに、時間ばかり費やすというはめになるのです。
まあ、私には楽勝だったわけですが! というか、この授業は本当に面白かったですよ。図書館の蔵書のだいたいを前もって把握しておいて、問題が出た瞬間に頭の中で蔵書検索。答への到達可能性の高く、そして他の人がなかなかたどり着かないだろう順にソートするのですよ。そして図書館へゴー。皆が見当違いのことをしている間に、中くらいの罠をクリア、皆が第一段階の罠を抜けた頃には第二段階、第三段階の罠を突破して、一番最後に素直な問題をやっつけるようにすれば時間的ロスが最小ですみます。こうして私は居残りなんかしたことなかった!
でも、この作戦が効くのは結局自分の鼻が利く分野限定ですから、得意な範囲からはずれたものが出たときにはてこずりましたね。でも、そういうときにはよくしたもので、ちょうど得意分野を違えた同類が頼りになるんですね。つまり、情報をリークしあうわけですよ。あの地名なら『架空地名事典』を探すといいぜ、あらサンキュー、じゃああなたの探している事件に関する情報を教えてあげるわ、うんぬん。こうして役割分担して、更なる時間短縮をはかるのでした。
ああ、あの授業は本当に楽しかった。まさに情報系生物である私にとってはご馳走といえるような時間で、自分の持っている情報が役に立って、そして自分の知らない情報を教えてくれる人がいて、ああ、私は私の知らないことを知っている人が(そしてそれを出し惜しみしない人が)大好きです!
ああ、もうっ、図書館でまた働きたいなあ。それでリファレンスを山ほどしたい、ブックトークなんかもしたい。はたせぬ夢なんですけどね!
- マングウェル,アルベルト,ジアンニ・グアダルーピ『完訳 世界文学にみる架空地名大事典』高橋康也他訳,東京:講談社,2002年。
- マングウェル,アルベルト,ジアンニ・グアダルーピ『世界文学にみる架空地名大事典』高橋康也訳,東京:講談社,1984年。
0 件のコメント:
コメントを投稿