2006年1月11日水曜日

隊士は見た! 裏事情新選組

 私の読んだことのある新撰組ものといったら『大夫殿坂』くらいしかないといっていましたが、対象を小説から漫画に向けると状況は多少ましになるかも知れません。例えば、ついこの間も紹介しました松山花子の『診療再開! 小さく弱い人たちへ』には新撰組を描いた読み切りが収録されていて、けどこれをもって新撰組ものを読んだというのもどうかなあ。というのは、やはり松山花子的なカリカチュアライズがされていまして、カテゴリとしてはパロディとかに含まれるんじゃないかと思うからです。だって、タイトルからして『隊士は見た! 裏事情新選組』ですから。いったいその裏事情というのはなんなんだと、そんな突っ込みのひとつも入れたくなるじゃありませんか。

ですが、さすが松山花子と思わせるものでもあるから素敵です。描かれるのは文久二年の浪士募集から翌年九月の芹沢粛正まで。主役は土方歳三。小石川伝通院にて出会った芹沢鴨に武士の理想を見いだした彼のうちで、いったいいかなる変化が起こって、ついに暗殺するまでに至ったのか。土方の胸のうちが描かれるときは結構シリアスでナイーブな、ちょっと読ませるものであるのですが、ところが最終的な判断の動因はもう完全にギャグそのもので、そうした落差も含めて松山花子らしさが満ちています。

でも、やっぱり松山花子らしさは、シニカルなところに見いだしたいものであります。醒めて対象を遠巻きに見るような視点はこの漫画にも健在で、そうした見方はギャグといって片づけてしまうには惜しいものがあるのです。

土方の武士への憧れと自らの出自に対するコンプレックスが結実した法度。自分は本当の武士ではないという思いが、もうすでに過去のものとなっていた武士らしさを声高に叫ばせたのだろうなあと。対して、他の隊士の思いはいかなるものであったのか。松山は近藤以下全員を皆考えの浅いものであるように描いていますが、確かに幕末の行き詰まりの中で、将来に展望を見いだせない若者が、自分の腕を振るえる機会がきたと募集に群がり、後は付和雷同の如し。こういう見方は、新撰組のファンからしたらあんまりにあんまりなものであるのでしょうが、けれど私はそういう考えもあながち間違ってはおらんのではないか。そんな風にも思うのです。

自分が松山花子の描く新撰組像を面白く受け入れられるのは、私自身が新撰組に好意的ではない事情があってのことかも知れません。新撰組への興味は尽きないものの、かといって彼らにシンパシーを感じるわけではないのです。これまでもずっとそうでしたし、これからもきっとそうでしょう。

こんな私ですから、松山の新撰組は非常に楽しめるものでありました。

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