2006年1月6日金曜日

犬の生活

 今の若い人はもうそんな言葉知らないかも知れないけど、昔はルンペンなんて言葉があって、浮浪者とか失業者を意味するドイツ語なんですが、私はこの言葉を聞くとどうしてもチャップリンを思い出してしまいます。ぼろは着てても心は錦というか、権力大嫌いでけれどぶったところはなく、人間臭くて、紳士で。喜劇王だなんていわれていましたね。無声映画の時代にたくさんのフィルムを撮って、その後トーキーにも進出して、短編であっても大作であっても、そのどれもに心が通っていて、特に中期から後期にかけての作品は素晴らしい。でも初期の短編にも見るべきものはたくさんあって、『犬の生活』もそんな中のひとつです。

チャップリンがですね、群れからつまはじきにされた一匹の犬をですね助けまして、それから一人と一匹で一緒くたになって暮らすという話。基本はどたばたのコメディです。いかに日々の糧を手にするかとか、そういう試行錯誤、チャレンジの連続が面白いといった短編なんですが、考えてみればそうして暮らしているチャップリン演ずる放浪紳士がすでに人の群れからつまはじきにされた一人であるんですよね。

チャップリンは後に文明批判や反戦といった、現状に果敢にプロテストするような映画を撮りますが、そういった視点はすでにこうした短編時代に見受けられるのかも知れません。

昔、平成がまだ一桁だった頃、NHKのBSでチャップリンが大量に放送されていて、長編もやれば短編もやる。それこそ、十把一絡げにされそうな、ほとんど知られていないような短編も放送されていて、私のうちには当時まだ衛星放送を見られる設備がなかったから、見たくて見たくてたまらなくて、人に頼んでビデオに撮ってもらっていたりしました。そのテープは今もちゃんとしまわれていて、でもこのところは些事に追われてすっかり忘れてしまっていました。

チャップリン、好きでした。高校の図書室にチャップリンの自伝を見つけて、それを読んで、映画を撮っていたときの話やなんかを読んで、貧しい暮らしを表現しようと演ずるマイムで笑いをとるはずが、共演女優に涙を流させてしまった話などいろいろ。チャップリンは、笑いの中に人間が人間として生きる悲しさを込めた人でした。

犬の生活もそういう色を出していて、この映画では、犬と一緒に眠るチャップリンの絵が妙に記憶に残っていて、あの冷たい外界に対し、一人と一匹身を寄せあっている切なさと暖かさが一緒になった素敵でほほ笑ましく、そして一抹の悲しみも感じさせる名シーンであったと思います。

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