『ぽすから』を読んでいると、なんだか昔が思い出されます。『ぽすから』は、美術系大学を受験しようという人たちが予備校で学んでいる、その様子が描かれた漫画。なんだかね、懐かしい感じがしてくるのですよ。まだ海のものとも山のものともつかない、自分の可能性を夢見ながら、不安とともに明日に向かおうという時期の少年少女たち。ああ、こうした節目は人生には何度もあって、思い返せば私にもあったんだろうなって。大学の実施するスクーリングに参加して、そこで知り合った人たちと、大学で一緒に学べるといいねなんていいあって、再会できた人もあれば、それっきりの人もあって、そうした思い出、なんだかありありとまぶたに浮かびます。
昔を思い出してしまう — 、それは、『ぽすから』に受験生時代の雰囲気が感じられるからでしょうか。受験というのは不安込みのいやなものではあるけれど、仲間と一緒に同じ困難に立ち向かう。そうしたイベントがみんなの気持ちをまとめてくれる? いや、けれど『ぽすから』は受験を強く意識させるような漫画ではありません。むしろボーイ・ミーツ・ガールといいたい、そんな雰囲気のある漫画です。
主人公千谷白樹、ヒロイン門見茜。素朴なふたり。なんだかね、一目惚れ的にとでもいったらいいのかなあ、自然とひかれるところがあって、なんだか自然と気になって、それでお互いに好きなんだけれど、それでも付き合うとかまでいかないっていう関係がくすぐったくって、不器用なんでしょうかね。なんだかいいなって思います。それで、自分にも、こんな感じに気になっていた人もいたっけかなあ、こんな風に私のこと思ってくれる人があったらよかったろうになあと、そんなことまで思い出したりしたんです。
誰しもあるのか、それはわかりません。けれど、受験、恋愛、気になるあの子、少年期思春期青年期の心情がよくあらわされていて、なんだかすごく心にひっかかってくるものがあるのです。こんな時代が自分にもあった、あっただろうか、あったらよかった。愛おしさとともに眺めてしまう、そんな風景がきらきらと輝いています。その時、あの場にいた頃にはわからなかった。青春という、うっとうしくって、けれど瑞々しさにあふれている季節の色が、鮮かに躍動して描かれている。ああ、好きだなって思う。ああ、これって年とった証拠なのかな? などと思いながら、彼彼女らの青春に胸ぐるしさ感じるほどであるのです。
蛇足
茜が好きだ! じゃなくって、名前のつけかた、うまいですね。美術ものだから色に由来している。白樹は白、茜は赤。ってレベルを超えて、姓にも注目ですよ。千谷白樹、チタニウムホワイト。門見茜、カドミウムレッド。茜の姉、萠は萌黄色、そしてカドミウムイエロー? あとは、群上晴、群青とスカイブルー? 滝美鳥、ターコイズグリーン。根津利久、利休鼠。村崎ゆかり、紫。と、なかなかに凝って、けれど割と無理のない、そんなところがいいですね。
- 中村哲也『ぽすから』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2010年。
- 以下続刊
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