2010年1月18日月曜日

雪豆娘

『雪豆娘』を買いました。雪にまつわる恋愛? 出会いをテーマにした短編が収録されておりまして、小さな雪女と出会うお話『ゆきおんなのこ』、雪男を自称する少年と出会うお話『Snowman』の2編。前者はコメディ色が強く、後者は恋愛ものとしての色が濃厚。どちらも面白くて、手にできてよかった、読めてよかったと思っておる次第です。あ、雪男っていうとどうしてもヒマラヤあたりに出没するというUMAを思ってしまいますが、そういうのではなくって、美少年です美少年。ちょっと、おっ、とか思ってしまうような美少年であります。

さて、『ゆきおんなのこ』。雪女の昔話をモチーフに、あの雪女の娘だという女の子が結婚相手を探す話に仕立てています。主人公はこの子というより、この子と出会った男性といったほうがいいのかな。和装の女の子に、なぜそんな格好をしているのかと聞いてしまったのが運の尽き。自分は雪女だ、正体を知ったものは殺さなければならない、しかし夫婦になれば大丈夫、かくして結婚を迫られるというのですが、この男性の反応が面白くってですね、まったくもってリアリスト、雪女だなんて当然信じていない。昨今の世相状況を反映した台詞がすごく面白いのでした。

でも、この話、またちょっとネタばれになるけどごめんなさいね、男性に雪女の真実を気付かせるところ、気付いた瞬間に終わったと自覚させるところ、それでいてハッピーエンドだったりするところ。その急転直下な展開には、もうすっかりやられました。もう、果報ものだなあ、ってこれはちょっと違うか。いや、でもね、こういうことを書くと本来的な漫画のストーリー立ての面白さからは逸脱しちゃうのですけれど、雪女が可愛くってですね、私、以前からこの人の描く絵が、線が好きなんだっていってましたけど、まさにそんな感じ。小さな女の子なんだけれど、ちょっと惚れっぽくって、それでもって挑発的で謎めいてて、かと思えば泣き顔に見せるいじらしさ。最高じゃないか、なんて思って、それであのラスト。その割り切りのよさは面白く、一瞬状況を引き締めてからの反転です。このキャラクターあってこそといってもいいかも知れない。見事でした。

そして『Snowman』。これは、もう普通に普通の恋愛ものと思って読んじゃえる、そんな漫画です。雪男を自称する男の子がヒロインにアタックするというものなんですが、男の子の人懐っこさというか屈託のなさ、これはすごく可愛い。ヒロインはなんかクールな女の子なんですが、この少年の笑顔にほだされてる、そんな描写がなんだかすごくほっとするような、心をゆるませるような感じでありましてね、ああ、最初はドン引きだなんていってたのに、こうして出会って言葉交わしていくうちに、だんだんに気持ちが近付いていって、この不思議なこという男の子のことが気になってしかたなくなっていくんだなっていうことが、しみじみと伝わってきてすごくよかったのでした。

私は、これまでこの人の漫画に強い恋愛の色を感じたことはなかったのですが、それは普段私の読んでいるものにおいてはあえてやっていなかったんだなっていうことがわかる、そんな出来でした。けれど、この漫画における恋愛の色っていうのも、ほのかにそっと色付いた程度の穏かさに抑えられていて、好きという感情が疾走するような、そんな感じではないんです。あくまでも穏やかで、けれどそうした気持ちが、ヒロインの淡々とした感情の描写にあらわれてくる。戸惑いをともに意識される気持ちが、少しずつ大きくなってくる。どうしようもなくふくらんでくる。ああ、すごくいいね。なんか読んでいて、いじらしかったり、切なかったり、けどすごくしあわせと感じられる、そんなくすぐったさもいい。そして、ハッピーエンドですよ。

このふたつのハッピーエンド、仕掛けはまったく逆だったり、またテイストも違ったりするのだけど、どちらも読めばしあわせな気分になれる。ああ、いい漫画だなって思えて、そして私はちょっとしあわせです。

  • チェリオ,ののちき『雪豆娘』ずんだもち姉妹,2009年。

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