2009年6月1日月曜日

ニコがサンタ

 今日から6月。水無月、来月は文月。いよいよ夏がやってきますよ、そんな時期にサンタクロースものをとりあげます。桑原ひひひの『ニコがサンタ』。『まんがタイムきららキャラット』に連載されていた漫画、隔月の掲載でした。最終回は2009年5月号短い連載だったけど、好きでした、なんていってましたね。けど、連載期間は3年にも及んでいたのか。隔月だったとはいえ、3年。結構な長期連載と感じます。いや、本当、驚いて、けれどあっという間のように感じたんだ。それは、私が年取ったためなのか、いや、楽しい時間はあっという間に過ぎるなんていうじゃありませんか。描かれたできごとが楽しかった、それゆえにことさら短かく感じたのだと思います。

ちょっと引っ込み思案のヒロイン、文月のお隣に引っ越してきた、やたら派手で騒々しい女の子、それがニコ。家族で暮らしているわけでもないようだし、なんだか不思議なところがたくさんある子なんだけれど、極めつけは、自称サンタクロース。どう見ても、どう考えても、痛い子じゃないですか。落ち着きがなくて、周囲を見渡せない。そんな子が、ずかずかと文月の日常に踏み込むように関わってきて、そして文月の毎日はどう変わったのか。その少しずつ変わりゆく様子が描かれる、そこがすごくよいと思ったのでした。

最初は迷惑に思いながらも、迷惑といえなかった。そんな文月が、ある時溜め込んでいた思いをぶちまけて、けれどそれがきっかけになって、だんだんに打ち解けていく。思ったことを少しずつ、そしていつしかはっきりというようになって、それに伴なって表情さえも変わっていくんですね。その様子は、本当にいい。心に沁みるものがあって、ああ、友だちになるっていうのは、こんな感じだったっけ。そんな風に思って、そして秘密を共有する、そうしたところ、目を細めて読みました。目が悪くて、小さい字が読めないからとかじゃないよ。なんていうんだろう、いいなあって思った、それでなんかじんと泣けてきた。悲しくて泣くんじゃなくて、しあわせと感じて涙が出る。そんなあたたかく、心地よい関係がとてもよかったのです。

しかしそれでもさすがは桑原ひひひ。辛辣なメリーさんはとてもいい。でも、メリーさんもいい人じゃん、そう思ったところにニコの的確なコメントが突き刺さる。けど、こういう辛辣というかさばけた関係っていうのって、親しさゆえのものという感じもするから、ほら、文月の思いがけない発言、私が欲しいのはミステリー全集で約5万円なんだけど、これなんかもうしびれましたよ。それまで、文月、いい子だなあ、可愛いなあ、としか思ってなかったのが、こうした面が見えてきてより魅力的になった。そう感じるのは、そこに文月の素直な気持ちが現れてるって思うからなんだろうな。気をつかうのは悪いことじゃない。けれど、気をつかわなくてもいい、傷つけたりとかは駄目だけど、思ったことを思ったようにいいあえる、そんな気の置けない相手に見せる表情っていうのは、やっぱり魅力的だと思うのです。『ニコがサンタ』っていうのは、気持ちを相手に贈る、贈り合う、そうして気持ちを深めていくっていうプロセスを描いて魅力的な漫画であると思ったのでした。

また、クリスマスごろに読んでみようと思います。クリスマス、冬至のお祭りですね。冬が底を打って、世界は春に向かい頭を上げる、そんな時期に読むには、とてもいいお話であると思います。

  • 桑原ひひひ『ニコがサンタ』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2009年。

引用

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