『銘高祭!』は『まんがタイムきららフォワード』にて連載中の漫画。作者は『眼鏡なカノジョ』のTOBIで、連載がはじまると知ったときには、意外そしてちょっと嬉しい、そんなことを思ったものでした。いや、眼鏡だからじゃない。派手さはないけれど、地道な展開が期待されるなって、そんなことを思ったんですね。そして、その予測はほぼ当たって、地味で、けれど登場人物の感情を丁寧に描いていこうとする、そんな漫画となりました。舞台は高校。中学生のころに見た銘高祭に憧れたみちえが、文化祭実行委員長に抜擢されて — 、という物語。そして、みちえを軸としながらも、他の実行委員たちにスポットライトが当たっていく。その過程で描かれる、彼らの思い、感情、それがなかなかによいのですね。
物語はみちえを軸としながらも — 。確かにみちえはヒロインで、彼女が『銘高祭!』において、大きな役割りを担っているのは確かであるのですが、しかし、『銘高祭!』はみちえの物語でありながらも、みちえだけの物語ではありません。生徒会長、副会長がいて、会計委員のふたりがいて、新聞部がいて、そして実行委員ではない普通の生徒たちもいて、銘高祭に関わるみなの思いをすくいあげようというかのような感触があるのです。誰よりも熱い情熱をもって、必ずや銘高祭を成功させようと奔走するみちえがいる。けれど、そのまわりにいる委員たち、彼らの思いがみちえに劣るのかといえば、決してそういうわけではない。誰もが、それぞれに違った思いをいだきながら、ひとつのテーマに向かって進んでいく。そして、それほど熱心ではない一般の生徒にもドラマがある。温度の高低はあれど、銘高祭というものを、ほかでもない今年の銘高祭をいうものを、多様な目、気持ちを通して描こうとする、そんな意図が感じられるのです。
銘高祭は一年通して最大のイベント
。だからこそ熱くなってる人がいる…
。けど、私にはそれがよくわからない
。文化祭に自分の青春を燃焼させるみちえのような人を見て、私が思ってきた気持ちもひろいあげられている、そのように感じて、だからなおさら好きになったのだと思います。誰もがひとつのことに一丸となって取り組めるとは限らない。そうした温度差、むらも描いてこその文化祭ものかも知れない。けれど、ただ冷めているだけじゃない。それが、この漫画のよいなと思ったところで、なぜみちえがあんなに熱心になれるのか最後まで見届けてやろうじゃない
。ただ、わからないといって立ち竦んでいるのではなく、わからないなら、それをわかろうとして飛び込んでみる。みちえのように熱くなれるかはわからないけれど、遠巻きにしてるだけじゃなく、少しでも歩みよろうというその姿勢が、なんだかすごく健全だなって思ったのでした。
そして、ちょっとだけひっかかったところ。あの先生の態度に実は納得いってないんだ。きっと過去になにかがあったんだろう、それも銘高祭がらみでなにかあったんだろう、それは充分理解して読んでいたんだけど、それでも彼女は教員で、プロフェッショナルとして教育という仕事に従事する、そんな立場の人間なんです。それが、ああいう、感情に引き摺られたとしか思えない、配慮に欠けた態度で臨むのはどうだろう、などと思ったのは、私の教員という職に対する期待度があまりに高すぎるからなのでしょうか。現実を見れば、もう、とんでもなく酷いのもいます。だから、こういう、自分の過去に捕われるというのも、自然で、ありえる話なのでしょう。それはわかる。教員だって人だもの。そんなことがあってもいい。けれど、そうだとしても、仮にこういう教師がいるのだとしたら、私は、それはプロとしてどうだろう、そのようにいわざるを得ない、そんな風に思います。
彼女の発言は、みちえの思いに一歩踏み込んで、銘高祭は自分のものじゃない、だから、みんなでやらなきゃだめなんだ
、その言葉を引き出して、一種ひとりよがりだったみちえの思いをより高いところに引き揚げる役目を担ったのですね。そして、おそらくは、彼女の言葉は、かつての自分自身にも向けられた、そうした言葉は、今という時に、今年の銘高祭に取り組む生徒たちを通して、自分自身にも返って、過去を乗り越えさせるきっかけとして働いたのだろう、そのように思います。
『銘高祭!』は、銘高祭というできごとに関わるものの思いをよくひろいあげて、つぶさに描こうとする試みです。この先にできあがっていくだろう銘高祭。それはどのようなものになるのだろう。それが、部外者、傍観者である私にとっても楽しみでならないのは、何かが始まる
、そして何かが起こっている、そうした実感が、私をも引き込んでしまっているから、なのでしょうね。
- TOBI『銘高祭!』第1巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2009年。
- 以下続刊
引用
- TOBI『銘高祭!』第1巻 (東京:芳文社,2009年),12頁。
- 同前,107頁。
- 同前.108頁。
- 同前,116頁。
- 同前,163頁。
- 同前,33頁。
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