今朝新聞見ていたら、関西では本日深夜に『マルコヴィッチの穴』をやるみたいではありませんか。7.5階のオフィスで見つけた謎の穴。そもそも7階でも8階でもない中途半端な1/2階にオフィスがあるという点からどっかおかしいのですが、その穴です、穴がですよ、ジョン・マルコヴィッチの頭に繋がっているというとんでもない発想が実にきてれつで素晴らしい。マルコヴィッチ(実在の俳優です、しかも名優)がまずあってこの発想が出たのか、あるいはこの発想を実現するにあたってマルコヴィッチが選ばれたのか、そのへんちっともわからないのですが、でもこれ、マルコヴィッチというちょっと耳慣れない音の響きがすごく効果的に働いているように感じます。原題はBeing John Malkovich。ジョン・マルコヴィッチになるとでも訳したらいいのか知れませんが、しかしそれを『マルコヴィッチの穴』としてしまった邦訳スタッフの発想も素敵です。穴! タイトルを見て内容が想像できない映画のトップクラスではないかと思うのですが、しかし本当に穴なんだから仕方がない。シンプルにして力強い、屈指の名タイトリングであると思います。
この映画、1999年の映画なんですね。そんなに前だったっけかー、とえらく驚いてしまうのですが、DVD発売は2001年。私、内容もろくに知らないというのに、タイトルのインパクト、そして黒地にマルコヴィッチの顔がばばーんと浮かんでいる装幀にすっかりやられてしまいまして、買った。買いました。思い起こせば、このころ、いろんな映画をDVDで買って見るというのに凝っていた時期でした。いろんな映画を見たのですが、なかでも『マルコヴィッチ』のインパクトはなかなかのもの、いずれまた見たい映画として記憶に残っています。
この映画、ストーリーはすごくシンプル。マルコヴィッチというプラットフォームにただ乗りして儲けてやろうという商魂たくましい連中が、次第に最初の素朴な興味や興奮を失っていくというところがなんだかすごくリアルで、人間の汚さやら悲しさやらがよく表れていると思います。人間は環境や条件さえ揃えば、自らの欲求をとことんまで追求してしまうんだろうなと思わされる。その欲求というのも、金であるあるかと思えば、性的快楽もそうで、また名誉もそう。貪欲に貪欲に、どこまでも利己的に振る舞う彼らは、マルコヴィッチを搾取し踏み台にして、けれど暴走はとどまるところを知らない。ああ、なんてかわいそうなマルコヴィッチ!
この映画基本的に喜劇、コメディなんですが(ああ、そりゃもう大笑いさ)、どこか悪夢に似た異様な肌触りを残して、また時にいやに現実味のある描写もあって、笑いながらも芯になにか気持ち悪さや嫌悪の感情がある、そんな多面性のある味わいが魅力です。多分に悪趣味で、シニカルだけど悲しくて、いろんな感覚がほんとごたまぜにされているからいかようにも解釈できそうな、だからあえて解釈せずにその感じたままを飲み込んでおこうかなと思いたくなるような、まれに見る奇作であります。
0 件のコメント:
コメントを投稿