四コマ誌というのは家族ものであったりオフィスものであったり、あるいは若い人向けのものなら学校ものと、そういうある程度決まった方向性というのが雑誌ごとにあったりするのですが、『パティシエール!』はちょっと単純にそういう枠ではくくれない感じです。製菓の専門学校を舞台に繰り広げられる学生たちの日常は、販売が中心になるケーキ店ものとははっきりと趣を違えていて、もう完全にプロフェッショナルの世界。ケーキ作りの裏側、苦労もろもろが面白おかしく、けれど真面目に伝わってくる専門職ものとしての雰囲気があるのです。でも、それだけじゃない。もう一度いいますと、舞台は製菓の専門学校。そう、主人公は学生です。専門職ものにして学生ものという、ハイブリッドが実現しています。
そして、このハイブリッドを束ねる要となるがヒロイン森山まさこ、二十五歳。十九歳の同級生にねえさんねえさんと慕われて、私はこの設定の妙にはたとひざを打ちますね。ひとり、まわりの学生たちとは違った位置に立っているねえさんは、時には学生たちのよい保護者として、またある時には皆と同じく未熟な製菓の学生として、そしてまたまたある時にはプロ中のプロである講師たちとの接点として、普通なら簡単に分離してしまいかねない場を繋ぐ軸のような役割を担っているのです。このポジションはおいしいですよ。読者はまさこねえさんの視点を通して場に参加することで、まだ子供っぽさの残る学生たちとも、学生たちから見ればずっと大人である講師たちとも、対等の目線で向き合える。もしこの人が普通の十九歳の学生であったら、例えいくら大人びて描かれたとしても、今この漫画が感じさせている一種深みを出すことはできなかったであろうと思います。大人の立ち位置、態度を持ちながら未熟な学生でもあるという、異なるふたつの状態の境界線上にあるねえさんは、その両者ともに完全には交じり合えないというハンデを背負いながらも、その両方の面白さに立ち会うことができるという、絶好のおいしいとこ取りキャラとして成立しているのです。
でも、この人は実際ただ年長者であるだけでなく、ふところ度量の大きなよいねえさんであると感じさせるに充分な描かれ方をしていて、このへんのキャラクターの作り方がうまいなと思うのですよ。頼りになって包容力もあって、なにより余裕があるところがいいですね。年齢のギャップを感じて自虐的になったりもするけれど、それがいき過ぎることのないのは、森山まさこというキャラクターがもっている余裕のためなんだろうと思います。子供っぽさを発揮して失礼きわまりない植竹に対しても、それをいなして受け止められるだけのおおらかさがある。やんちゃな男の子たちも持ち前の姉御肌でドーンと面倒見て、それでもってそれが講師をも引き込んでみんなを身近にしてしまうという、なかなかに魅力的なねえさんが楽しい『パティシエール!』。単行本が出ると知ったときは嬉しかった!
キャラクターに力があって、お菓子のネタも面白い、全体に調和のとれたこの漫画、弱点があるとしたら地味ってとこなんじゃないかと思うんですが、でも底からぐうっと支える地力みたいのが感じられて読んでいて飽きない。いい漫画だと思います。私は好きです。
- 野広実由『パティシエール!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2007年。
- 以下続刊
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