新しく年が明けて一週間が経とうとしています。さて、いきなりで申し訳ないのですが、皆さんは著作権というものに興味をお持ちでしょうか。ご自分でサイトをおもちであったり、また同人活動なんかをされている方だったら、著作権がどういうものか多少なりともご存じのことと思います。著作権は著作者の権利を保護するための枠組みで、いうまでもなく大切な考えです。著作物が勝手に複製して売られたりすると、本当なら著作者が手にするはずだった利益がなくなってしまいます。そうなると生活できなくなってしまうかも知れません。ひいては優れた著作物の作り手が出なくなってしまうかも知れません。そうなってしまっては文化は成り立たないので、著作権が必要なのです。今、日本では、著作権は、著作者が死んでから五十年のあいだ保護される決まりになっています。
保護期間が過ぎた著作物は、共有著作物となって、自由に利用できるようになります。翻案して新しい作品に仕立て直したりも自由にできるようになります。映画になったり、舞台にのったり、あるいはまったく違った姿で現れることもあるでしょう、『ロミオとジュリエット』が『ウェストサイドストーリー』となり、『じゃじゃ馬ならし』が『マイ・フェア・レディ』や『プリティ・ウーマン』の大本となったように。
創作という営みは、なにもない状態 — まったくのゼロからおこなわれるのではなく、過去から綿々と伝えられてきた作品の海からはじまります。ここに作品を紹介したシェイクスピアだって、いきなり物語を作りだしたわけではありません。彼の作品は伝承されたフォークロアから生まれました。だから、著作権の保護が切れた作品も、それでその命を終えるということはありません。新たな作品の土壌となって、新たに生み出される作品を待ちながら、その作品自身も伝えられてゆくことでしょう。
今、著作権の保護期間を延長しようという議論がなされています。著作権の保護期間を今の50年から70年に延長することで、著作物から得られる利益をより長く確保しようという考えからです。確かに、売れる作品を守るためにはそういうこともいいのかも知れません。ですが、著作物には売れるものがあれば、売れないものもあります。ですが、売れないからといってその著作物に価値がないというわけでもありません。価値があるが売れないというものもあるのです。そして、そうした作品は売れないために出版されず、誰の目にも触れないまましまい込まれてしまうというようなことも珍しくありません。
そうした作品をよみがえらせるにはどうしたらいいのでしょうか。私は、青空文庫の活動がおおいに参考になると思っています。青空文庫は、著作権の保護が切れた作品をデータにして、インターネット上に公開しています。このやり方だと、本にして出版するよりもずっと安価に作品を流通させることができます。こうした試みは青空文庫だけにとどまりません。海外ではProject Gutenbergが同様の活動をしています。Delcamp.netは著作権の切れたギター作品の楽譜を公開し、それら作品の音源を用意しようとしています。
インターネットを離れて商業活動に目を向けてみると、サン=テグジュペリの著作権保護が終わったことで、多様な『星の王子さま』の翻訳が出版されました。私は倉橋由美子による訳を買ったのですが、他によさそうなのがあれば買ってもいいなと思っています。
著作権の保護期間が今の50年から70年に伸びてしまうと、こうした活動をするのに少し支障が出てしまいます。生まれるはずだった作品が生まれないかも知れません。外国作品なんかだと、新しい訳がなされる可能性も少なくなりますし、まあ今ある翻訳がよかったらいいのですが、もし悪訳だったら!? みたいなことも思ったりしますし。著作権の管理者が翻案を嫌って許可を出さないということもあると聞きますし、そもそも今誰が著作権を管理している(引き継いでいるか)わからないために、どうにも手の出せない著作物もたくさんあると聞き及んでいます。
著作者が、著作者の権利が守られることが大切ということは重々わかっています。だから私は、なるたけ借りず、中古も利用せず、著作者に利益が還元されるようなやり方でもって著作物を入手しているのですが、ですがそんな私でも、死後70年の保護期間はあまりに長すぎると感じるのです。いや、実をいうと50年でも長いと思っている。生きてる間だけでいいじゃないかと思ってる。
保護期間が延長されることで得られるものがあれば失われるものもあります。そのふたつを天秤にかけたら、失われるものの方がはるかに大きいと私は感じるものですから、私は著作権保護期間の延長には反対します。
青空文庫が、著作権の保護期間延長に反対する署名活動を始めています。締め切りは2007年4月30日です。私ももちろん署名します。知り合いの間を、用紙を持って回ろうと思います。そして、できるだけ多くの人に、このことを伝えたいと思っています。
この記事を読まれた方の中で、私もなにかしたいと思われた方がいらっしゃったら、署名するだけでなく、サイトやBlogでこのことに触れてください。なるたけ多くの人にこのことを伝えて欲しいと思います。
- 野口英司『インターネット図書館 青空文庫』東京:はる書房,2005年。
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