2006年2月28日火曜日

そらのひとひら

 野々原ちきは私の好きな漫画家のひとりで、そのやわらかにはなやいだ描線が紡ぎだす可愛らしく美しいキャラクター群も魅力であれば、そのキャラクターでもってこれを? というような黒いネタを展開する意外性もやはりまた魅力で、どうにも目の離せない感じです。既刊は『姉妹の方程式』。私は『姉妹の方程式』を読んで、そしてこの度『そらのひとひら』を通読してみて感じたのですが、どうやらこの人は黒いネタを追求するほどに面白さを増すのではないか。いや、単純に黒いといってもブラックユーモアみたいなことをさしているのではなくて、もっとなんか、屈折した感情とそのもつれみたいなものを描き出すのが大変にうまいと思うのです。

『姉妹の方程式』でも感じていた感情のもつれっぷりの面白さですが、それは『そらのひとひら』において充分に展開されて、私は途中の回を何度か読んだことはあったけれど、その時には感じなかったもつれが最初から読むともう見事に見えてきて、主要キャラクターの感情のすれ違い、近づくに思わせて近づけさせず、逆に遠ざけることもまたないという絶妙の距離感は面白い。主人公はまれに見るネガティブさでもって、けれどそのうじうじとしたキャラクターが悪くなく、私は彼を愛せると思います。そう思えるのは少年を描写する筆の確かさで、彼のトラウマとなった出来事(そしてそれはいずれ誤解とわかるのでしょうか)や過去を追想し今に戸惑う大隅くんの心をしっとりと大切に扱って、まあその丁寧に描き出されたぶん、かわいそうさはいや増すのではありますが!

野々原さんは人の心の機微を扱うのに長けていらっしゃるのかと思われます。そうっとすくい取られて絶妙のタッチで描き出されるそれは、思わず笑みのこぼれ胸に暖かみをともさせるようなよい話に持っていくこともできれば、残酷にも相をずらすことで泣き笑いのおかしさを生み出すこともできて、だからきっとこれからもおかしかったり嬉しかったりする素敵な世界を提示してくれるだろうという予感がするのです。

野々原ちきは私の一押しです。読んでみればわかる。読めばわかっていただけることと思います。

蛇足

笑顔の春賀さん、眼鏡の春賀さんも最高なのではありますが、とりあえず今は児玉ちゃんに夢中です。い、いや、普通にめちゃくちゃ可愛いですじょ?

  • 野々原ちき『そらのひとひら』第1巻 (ガンガンWINGコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2006年。
  • 以下続刊

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