来るべき卒業シーズンに向けて、ちょっと卒業にまつわるものを取り上げてみました。気が早い? いや、一月は往ぬる、二月は逃げると古来から申します。あと十日なんてあっという間ですよ。ええ、楽しい時間は矢のごとくに飛び去っていくものじゃないですか。
あゆみゆいの『卒業』は、その中身も知らないままに購入した漫画で、いわゆる表紙買いというやつです。忘れもしません、香里園の女学を受験した帰り(もちろん生徒としてではない)、坂の途中にある古書店にて購入したのでした。過去の表紙買いを振り返ってみるとわかるのですが、どうも私は真っ正面から見つめる目に弱いようです。
帰りの車内で読んで、不思議な読後感がある漫画だと思いました。物語は卒業式の当日にはじまり、その日のうちに終わります。物語られる内容は、ヒロイン美晴のモノローグであり、入学式からの三年間、印象的なエピソードが繋ぎ合わされることによって、美晴と大樹の関係が明らかになっていきます。
うまい手ですよね。読み切りで三年間を描こうとすれば駆け足になりかねないというところを、時間軸は最終日に固定し、とびとびに起こる必要なエピソードを挿入していくというやり方は、すでに終わっているだけにはらはらさせるでもなく、むしろ美晴の一人称であり続けるから、すごくしっとりとして内省的です。センチメンタルと言い換えてもかまわないかと思います。表にあらわす自分と中に動く気持ちを対比しながら、だんだんと心が動いていく様をモノローグによりはっきりさせて、そして最後にドラマを作る。
激情型にならないのは、すべて出来事が終わってしまった過去として描かれているからなのだと思います。けどそれゆえに穏やかで、不思議に心に染みとおるようで、私はこの感触は好きだなと思ったものでした。
人間というのは不器用で、ぎりぎりにならないことには自分の気持ちさえはっきりしないようなもので、だから私はそういう不器用を見るといじらしいなと思うのでしょう。
さて、私にとってはまずは十日後。いくらなんでも私は歳が歳ですから、その当日ぎりぎりまで自分の中の心の動きがわからぬ、予想もできぬなんてことはないでしょうが、けどきっとなにか感傷的に兆すものはあるのではないかと思っています。
さよならは別れの言葉じゃなくて
でしたっけ? ええ、突然なにいってんだって感じに唐突ですが、きっとそんな感じであればいいと思う。ええ、そんな感じであればいいと思います。
- あゆみゆい『卒業 — 泣かないで』(なかよしKC) 東京:講談社,1993年。
引用
- 来生えつこ『夢の途中』
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