2005年11月18日金曜日

少年愛の世界

 暴れん坊本屋さん』で好感触を得、続いて遭遇した『甘口少年辛口少女』ではまってみようかという気になって、そして今日、久世番子既刊を揃えてみました。まずは『少年愛の世界』。もちろん『imp!』も買ってます。

『少年愛の世界』は、ちょっとあり得ないような状況を設定して、けれどそのあり得なさというのが面白いなあと思います。思えば、『甘口少年辛口少女』もちょっと不思議を日常に投げ込んで、その不思議をもって心の揺れ動きを浮かび上がらせていたのですから、『少年愛の世界』に関してもきっと同様なのでしょう。主人公愛の心の揺れ動きをそうっと見守って、私は非常に満足げでありました。

けど『少年愛の世界』はギャグの要素が強くて、そのギャグというのもパロディ色の強いものだから、大本のモチーフを知らないとちょっと楽しみ方に迷うかも知れません。でも、今や少年愛は国境を越えて羽ばたく世界語でありますし(本当)、その分野における最先端を走る日本で、こうした文化を知らないというのもなんです。触れてみれば、実によいものであるとわかるはず。いやなに、抵抗があるのは最初だけですよ。

って、なんの話してるんだ。

久世番子の漫画は少年愛とタイトルにはあるものの、掲載誌(ウィングス)の性質を反映させて、いわゆるBLものではありません。美しく心優しい少女と、その娘に憧れる少年を描いた、恋愛のときめきも嬉しこそばゆい、王道的ラブコメであります。

で、ラブコメにギャグ(パロディ)の要素が付加されていて、その持ち味というのが私には実によくマッチしているから、読んでいてすごく楽しかった。筋は基本的に王道系だから、読みながらでもその先に用意されている展開はすっかりわかってしまって、けれどそれでも面白さが減らないというのは、その展開というのが読者である私の期待そのものであるからでしょう。こうなるんじゃないかな、きっと落ちはこうだろう、と思いながら読んで、よしよし、いい感じに進んでる、その調子、そして、最後の最後にはやったーっ! そんな感じに読める。ほら、プロレスなんかでもいうじゃないですか。いかに技を受けるかが見どころって。まさに『少年愛の世界』に関しても、そうした受けの美学が花開いていて、なんかいいもの見せてもらったなあ、ってそんな感じ。駄目押しの書き下ろしも最高で、カバーをはいでもまた素敵。ヒットです。なにをどうしたらこっちが喜ぶか知ったはると思いましたね。実によいです。

『少年愛の世界』は久世番子の初単行本なのだそうですが、著者の多面的な魅力が一冊にぎっしりとつまって実に良質です。ギャグばかりでない、シリアスばかりでもない。けどそうした引き合う両要素の間には、この著者のらしさがぴしっと張っていて、ひとりの人のうちに広がる世界の豊かさを感じます。

  • 久世番子『少年愛の世界』(Wings comics) 東京:新書館,2003年。

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