イタリアは私の大好きな国のひとつで、多分、おそらく、世界中で一番愛する場所なんじゃないかと思います。ええっ、フランスじゃないのかい、なんていう声も聞こえてきそうですが、多分イタリアのほうが私には合ってるんじゃないかと思います。たった十日にも満たない2001年のイタリア体験は、私に、イタリア、なんと素晴らしい国!と思わせるに充分だったのでした。
感情が豊かでチャーミングな人たちの国。いや、そりゃ私たちが、お金を落としていく大切なお客様だったからかも知れません。けれど、そういうのとは違う交流も確かにあったのではないかと私は信じたいんです。フィレンツェのリストランテで出会ったおかみさん、ローマのリストランテでも大変楽しく嬉しい目に遭いました。それはたまたまの幸運だったのかも知れません。けれど、そういう幸運のある素敵な土地として、イタリアは私の記憶に刻まれたのです。
『イタリア人の働き方』は、なんだか仕事にいいかげんという印象のあるイタリア人の、まったく違った側面を取り上げていて、意外に思う人もあるかも知れません。けれど、私はこの本を読んでそう思ったのですが、楽しむということに対して貪欲なイタリア人だからこその仕事ぶりなのではないかなと思うんですね。仕事を義務や生活と引き換えにする苦役として考えるのではなく、我が人生の楽しみとして捉えることができたならば、この本に登場する、仕事に対して大いに前向きな人たちを理解することも簡単。そう、私も私の楽しみとなる仕事を見いだすことができたらば、きっと没頭するようにして働くのではないかと思ったのですね。
実際のところ、この本に紹介された人たちというのは、自分の天職ともいえる仕事を見付けることのできた、幸運な人たちなんだと思います。というのも、やっぱりイタリアでも、仕事が嫌で腐っている人はいるはずなんです。けれど、この本のカバーに書かれた一文、人口五七〇〇万人の国で法人登録が二〇〇〇万社
というのを見れば、確かに多くの人が一国一城の主として、自分の理想を探しているのかも知れないと思ったりして、ちょっとうらやましく思ったりもします。
イタリアの旅行中、ローマやフィレンツェでこそちょっと大きめの店には入りましたが、多くは個人商店っぽい店を利用しました。入り口をくぐって、ブオンジョルノと声をかければ、にっこり笑って挨拶を返してくれる店ばかりだったと記憶しています。旅の途中で寄った文具店、確かフィレンツェだったでは、まさにカウンターの向こうで店番のお姉さんが別れ話の最中(?)。取り乱して大泣きして、うわあえらいところにきちゃったぜシニョーラみたいに思っていたんですが、勘定しようとレジにいったら、その今まさに泣いていたお姉さんが、にっこりと笑ってグラーツィエ。私はびっくりしました。プロのなせる技だと思いました。
就業中に私用電話などもってのほか、しかも客の目の前で泣くという大失態。日本では絶対に許される行為ではありませんが、このお姉さんを見て私は、こうしたことが普通に起こっているイタリアが心から好きになりました。日本でもこういう終業態度を見習うべきだと思った。表面取り繕うばかりじゃつまらない、って思ったんですね。
だから、私は住んで働くのならイタリアがいいと思った。フランスに行けばフランスもいいと思うかも知れません。けれど、私はそれでもイタリアがいいと思うんじゃないかと予感がするんですね。
イタリア、素晴らしく美しい土地です。いずれ暮らしてみたい土地です。
- 内田洋子,シルヴィオ・ピエールサンティ『イタリア人の働き方』(光文社新書) 東京:光文社,2004年。
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