2011年5月15日日曜日

墨色えれくとろ

 『墨色えれくとろ』は知らない漫画。書店にて表紙がふと目にはいって、女の子三人組、タイトルには墨色。ということは、高校書道部ものかと思い手にとったらば、裏表紙に墨硯筆墨汁、帯を見てもたしかに書道ものらしい。買おうかなどうしようかな、少し迷ったのですけれど、私もかつては毛筆習っていた身。ただでさえ珍しい書道漫画。それも四コマとくれば、買っておこうとなったのも自然なことでありました。さて、私はいつも最初にカバーをはずして、その下のおまけを確認するのですが、なんとそこには期待させてくれる文言ありまして、それはこの本の協力者によるもの。私大学で書道科行ってまして。おおお、もしかしたら意外にしっかり習字のこと描かれたりする!? などなど期待したのでありました。

さて、漫画は期待に添うものだったのでしょうか。ヒロインは書道好きというよりも、書道が生活に当然のように存在している物部愛里。この子をメインとして、真面目そうなモニカ・U・グラッセ、暴走気味の藤戸花、ツンデレ書道用品店の娘波多野なつみ先輩、そして字のおそろしくまずい石毛あさ美先生、が脇をかためています。あまりに浮世離れしている愛里の行動に驚かされたり、花の突拍子もない行動にふりまわされたり、そしてふたりの面倒を見てることの多いモニカ。彼女らの、書道に関係したり、しなかったりする日常を楽しむといったタイプの漫画なんですね。

で、これがなかなかに面白かった。キャラクターがいきいきとしてる、そして可愛い。これらが前提としてしっかりあるところに、書道や愛里の田舎などといった要素がアクセントとして機能する。ええ、やっぱり書道というのはこの漫画の個性だったと思うんです。授業のノートも毛筆でとる。そのノートが具体的にどんなのか示される。草書、連綿、うわ、読めねえ。達筆ってことはよくわかる、だからこそ読めないっていうことが面白いと思うんですね。ノート、読めない。テストの答案も読めない。能筆がデメリットになるっていうのね、まさに極端にマイペースな愛里らしいなって思わせるネタでして、習字という題材とキャラクター性を同時に満足させるという点で、よかったなって思わされるんですね。雪の字を習うモニカさんなんかも、実にそれっぽい。泡がぱちんみたく、ああ、よくあるなって思えるようなのまで含めれば、習字に関するエピソードは結構多いんですよね。回を重ねるごとに、習字に関するエピソードは減り、キャラクター性を押し出す傾向は強まるのですが、意図されたものかどうなのか、だんだんに皆の仲がよくなり、互いの距離が縮まってるみたいな、そんな雰囲気思わせたりもしたんですね。

毛筆を習ってた人間としては、もっと書道のこと出てきてもよかったけれど、多分これくらいのバランスがいいんだろうな。そんな感じ。書道もあり、普段の生活、楽しい日々もあり、そして最後の進路の話みたく、わかってるようでわかってない部分が見えたりもする。ええ、そうした多様に現れてくるいろいろが面白かった。買ってよかったと思える一冊でした。

  • 黒渕かしこ『墨色えれくとろ』(バンブーコミックス) 東京:竹書房,2011年。

引用

2011年5月14日土曜日

はじめ×くろす

 はじめ×くろす』はまんがライフWIN - livedoor デイリー4コマにて連載されている四コマ漫画でありまして、サイト名にあるように、デイリー、日刊なんですね。毎日、1本ずつ四コマが掲載される。ちょこっとずつ毎日読める、はいいんですが、一本ずつだとものたりないから、ある程度たまった頃あいに読みにいったりしています。その『はじめ×くろす』が単行本になりました。というわけで、購入しまして、読みまして、ああこれは習慣の問題なのでしょうか。画面で読むよりも単行本の方がより面白いと感じられました。加えてカバー下、冒頭、各話合間のおまけなんかも実に面白くて、ええ、裏表紙側カバー下など、もう最高でありましたよ。

さて、『はじめ×くろす』。これは、最近はやりの、なんていっちゃっていいものでしょうか。女装男子ものの一バリエーションであります。とはいえ、この手の女装させられてお嬢様のおつきになるとか、女装して女子寮に入るみたいなのって、少女漫画なんかでは定番だったりするような気もして、だから男の娘ものというよりも、伝統的女装少年のバリエーションといった感覚が強いです。

女装するのは、というか、させられるのは、一宮家に代々つかえてきた榊家の息子、一であります。一宮のお嬢様、ほのか様を護衛するべく女装することになった。いや、ほのか様、女子寮に入っておいでなので、御側に寄るには女装するしかない。って、そうかな、ほんとにそれしか手はないのかな!? って思うのですが、どうも一宮の当主と榊のお父上の間ではそういう取り決めになっちゃってるみたいで、かくしてはじめはお嬢様おつきの家政婦に身をやつして、女子寮にはいることになったのでした。

でも、面白いですよね。お嬢様はとことん無邪気で、はじめの秘密を知ってるのは従姉で担任の祥だけ。時にほのかの父からもたらされる無茶な指令をこなしながら、女の子として振る舞い続ける、そんなはじめが不憫で不憫で、実にいいんですね。そしてお嬢様、ほのかも、ちょっと寂しがりやといいますか、はじめのことすごく気にいってて、この懐きようがなんともいえないんですね。はじめをドキドキさせればコメディとしての面白さを強め、またしみじみと友情など感じさせれば、お嬢様の健気な気持ちがクローズアップされる。この多様性がたまりません。ほのか様、本当にはじめのこと信頼なさってるんだなあ。その気持ちの素直さ、それがお嬢様を女の子として意識してしまうはじめに追い討ちをかけているように思えます。ほんと、こんなに純粋なお嬢さんにこんな邪な思い抱いたらだめだっ! そうした葛藤に、やっぱり純粋な少年のハートを感じちゃって、いやあ、はじめくん、すごくいい。この好きになっちゃいけないっていうシチュエーションで、でも好きにならずにいられない。あくまでも自分は護衛・使用人であるということを忘れず、けれど気持ちは動いてしまうのよっていう、そうした感覚がいいのだと思うんですね。

そして脇をかためる人たち、それもいいんですね。ほのかを狙うお嬢様、雪はちょっとわがままで、はじめには敵意あらわにするけど、でも本当に心底嫌い憎んでるって風でもないし、可愛い人だと思うわけです。そして、雪についている使用人、正宗、ほんと、素敵! はじめに恋しちゃったって、もう、ほんと素敵! あの最後のページなんて、もう、転げまわりそう! いや、あちこちにこうした気持ちの種がまかれてるって感じがしましてね、ほんといいのですね。

というわけで、私は藍さんのよき友人っぷりが大好きです。

  • 寺本薫『はじめ×くろす』第1巻 (バンブーコミックス WIN SELECTION) 東京:竹書房,2011年。
  • 以下続刊

2011年5月13日金曜日

『まんがタイムLovely』2011年6月号

『まんがタイムLovely』2011年6月号、発売されました。表紙は『はじめのちひろ』、雨あがり、青空と虹を足元に、傘をすぼめるふたりですね。空はふたりの背後に広がるけれど、絵としては足元にある。この、足元、水面に空が映っているかの演出は、ちょっと幻想的なもの感じさせますね。

『恋とはどんなものかしら』、先生につきまとう虎彦につきまとう女の子、ミカのこれまでのことを描いてみせて、おお、昔は泣き虫だったのか。リボンとられて、いじめられて泣いて、いやあ、あのぐちゃぐちゃの髪の毛、リボン、可愛くって、けどミカちゃん、戦略を間違えたんじゃないのんか? でも、強くなろうっていう選択は、好かれたいからじゃなくて、弱いものとして庇護されたくない、哀れまれたくないっていう思いの現れなんだろうな。そう思うと本当に健気なお嬢さん。いい子だなって思います。

『いつか王子さまが』、いいですね。驚きの展開であったのですが、その前段、王子さまとの再会、あれがよいですよ。演劇やってるとは思えないような人、すごく控え目な人、でも魅力的だなあって思ったりして、そしてこの人が嘘をついた理由とか気になりますね。で、驚いたっていうの、まさかヒロインが入団するんだ! すげえ、これは予想外でした。ちょっとわくわくさせられます。

『帰宅部活動中!』、故障しちゃった渡辺さん、陸上にはまだ未練があるっぽいんですけど、あの自棄っぽい食べ方とかね、それからメールをうけての表情なんていうのもね。なにか思わせぶりなところがあって、けど高橋の励ましなんかを見ても、それは昔のことを引き摺って、今を台無しにしちゃいけない、今を充分にいきろっていうのなら、やっぱり帰宅部で頑張る? ちょっとこの先の展開、気になりますね。

『君と朝まで』。あかん、この男はあかん。相手のことをなんにも考えてない。相手のことを理解しようとせず、自分の価値観だけで動いてる。相手のやっていることをまったく尊重しないその態度も不愉快だ! って、こいつはゆうたら、一度幻滅させて、やっぱりあのアシスタントさん、この人がいいの! そう思わせるための踏み台なんでしょうね。というわけで、アシスタントさん、絶望的な気分でいる、そのタイミングであのメール。あれは、いいなあ。文面もまたよくて、これは期待させられますよ。

  • 『まんがタイムLovely』第18巻第5号(2011年6月号)

2011年5月12日木曜日

魔法少女おりこ☆マギカ

  すごかったですよね、『魔法少女まどか☆マギカ』。私は当初、意地でも見るものか。そう思ってたんですけれど、なんかちらほら話題になってるじゃないですか。みんな、興味津々なんだなあ。で、調べてみたらMBS、すなわち関西が放送最速らしい。なるほど、他の地域に先駆けて見ることができるのか。じゃあ、ちょっと見てみようかな。なんて不純な動機から試聴開始して、話題の第3話、最速地域に住まいながらネタバレを喰らった……。しかし、ネタバレ喰らおうとも、あれは衝撃的で、そして魅せられましたね。もう、最終回まで、見事に引っ張られるままに駆け抜けました。

というわけで、最初の抵抗はなんだったのか、Blu-rayまで買っちゃってる始末。いやあ、遅ればせながら漫画も買っちゃってますよ。初版初刷を目前にしながら一度は黙殺したというのにね、買っちゃったんですよ。となれば、あとは私のいつものパターンですよ。関連してるもの、ひととおり買っちゃうんですね。ええ、本日、『かずみ☆マギカ』、『おりこ☆マギカ』の発売日ということで、早速買ってきました。『かずみ』は『きららフォワード』に連載されてるのを読んでるので、まずは『おりこ』から読みはじめて、ああ、なんとこれは陰惨な話でしょう。まさかの杏子メインではじまったのは、私にとってはむしろ朗報。しかし、表紙の中央にいる地味服の子、この子がおりこなんだろうなあと思ってたら、まさかの大誤算。この子はゆまでありますか。で、織莉子ですよ。なんてこった、あとがきに曰くラスボスポジションでありますか。けど、この人はこの人で、なにか目的があって、それこそ世界を破滅に導きたいとか、そういうんじゃない、むしろ世界を守ろうと戦ってるみたいなんですね。

まあ、その戦う相手っていうのが、魔法少女たちっていうんですから、状況は本編であるアニメを超えてしまうほどに陰惨で、ざわざわとさせられる、そんな不快感に溢れているのですが、いや、しかしすごいですよね。織莉子が避けたい事態、それはなんとなくわかる。で、彼女が魔法少女たち、それもマミさんといった、アニメにおける重要人物を狙う、その理由もおぼろげながらわかる。ええ、これが何周目なのかはわからないけれど、あの人が魔法少女になるのを阻止したい人が頑張る、そんな話であるんです。まあ、頑張り方が間違ってるような気もするんですけど……。

ぞわぞわとさせられる、そうしたテイストは、この『まどか☆マギカ』のシリーズすべてに共通していて、『かずみ☆マギカ』にしても、いつどのタイミングで陰惨な展開に落ち込んでいくのか、わからなくて、っていうか、もう微妙に落ち込みはじめてるような気もしないでもないんですが、でもまあ単行本1巻ではまだまだ明るく元気、前向きですよね!

ほんと、この2作、この先どうなっていくのか気になって、こういうところもなかなかどうして、です。

  • ハノカゲ『魔法少女まどか☆マギカ』第1巻 Magica Quartet原作 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2011年。
  • ハノカゲ『魔法少女まどか☆マギカ』第2巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2011年。
  • ハノカゲ『魔法少女まどか☆マギカ』第3巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2011年。
  • ムラ黒江『魔法少女おりこ☆マギカ』第1巻 Magica Quartet原案 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2011年。
  • ムラ黒江『魔法少女おりこ☆マギカ』第2巻 Magica Quartet原案 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2011年。
  • 以下続刊

Blu-ray

DVD

CD

2011年5月11日水曜日

働け!おねえさん

 『働け!おねえさん』は、開始当初、『くるっとまわって営業中』ってタイトルだったんですが、途中で変わっちゃいまして、もとの方がよかったのになんでだろうって疑問に思っていたんです。他にも登場人物を出すためなのかなあ、営業以外の部署も扱うからかなあ、なんて思ってたら、違っておどろきです。ヒロインはふたり。来島凛子と馬渡かの子。くるりんとまわりんだから、くるっとまわって。でも、かの子、人気がなかったらしい! わお、驚き! で、おねえさんメインになったんだ! というのを知らされた時には、ちょっと笑っちゃいましたよ。

でも、それはちょっとわかるんですね。だって、最初、馬渡かの子、ちょっと嫌なやつだったもの。若い営業のお嬢さん。けど不屈の精神、というか負けん気の強さか? それとも調子がいいからか? 抜群の成績を納めて鼻高々。で、それだけなら、鼻っ柱の強いやつだなあ、くらいですみそうなもんだけど、周囲に、とりわけ成績のふるわない来島さんに対して、失礼をはたらきまくったというので、もー、生意気な若手だなあ、そんな風に思われるのも仕方なかったと思うんですね。

けど、これはいずれ周囲に馴染んでいくんだろうな、そんな様子も見えたから、こいつめー、と思いながらも見守ってたら、やっぱりそうなって、特に来島さんに懐いちゃって、ああもう、こいつめ、可愛いやつよ。ええ、評価はだんだんに変わっていって、だからこそタイトル変わっちゃったのが惜しいと思ってるんですね。もちろん来島さんはいい人で、馬渡と来島さん、どっちが好き? っていわれたら、そりゃもう来島さんって答えるんだけど、今となっては、ふたりが一緒でそれがいい、みたいな感じもあるんですね。

馬渡の変化は、彼女ひとりの変化ではなかったというのもよかったと思うんですよ。最初のうちは馬渡の鼻息荒さ、遠慮のなさに苦言呈していた加藤主任はじめ周囲の面々も、今では暖かく馬渡かの子を受け入れて、まあ多少はおしかりなどあるようですけども、厳しくも楽しい、そんなオフィスになっているんですね。で、それがすごくよいの。見ていて、楽しい。それから、厳しさなんですが、来島さんのポジションにですね、ハラハラしてしまうんですよ。でもね、彼女が追い詰められてこそわかることもあるんです。ああ、来島さん、皆から愛されてるんだなあ、って、そういう成績とか数値だけでは語れないことが、ちゃんと伝わってくるのです。そして、成績とかばかりで自分を、人を語ろうとしてた馬渡が、来島さんに触れることで、だんだんに変わっていくっていうのもですね、ああ、この漫画の中の人たちの間では、ちゃんとコミュニケーションが成立していて、影響与えて、与えられて、少しずつ変わっていくんだ。それも、みなが変わっていくんだ。実感させられまして、こうした様子に、人というものに対する愛おしさを感じてしまうほどなのです。

キャラクターが、いきいきとしている、そこに息づいている。そう思わせてくれるところに、作者、水井麻紀子の力があると感じられます。ああ、みんな生きてるなあ。その存在の確かさが読んでいる私にも働きかけて、気付けばその人たちのことが好きになっているのですね。

  • 水井麻紀子『働け!おねえさん』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2011年。
  • 以下続刊

2011年5月10日火曜日

『まんがタイムきらら』2011年6月号

『まんがタイムきらら』2011年6月号、昨日の続きです。

『ノルグラサーガっ!』、ゲストです。魔法使いを目指す子弟を集めた王立魔法学校を舞台にした、学園ものです。ヒロインは、魔法使い科1年のドリルシルツ。ドリちゃんとか、それからドリルとか呼ばれてるのがなんかいいな。ドリル。いいな。そして、魔力がないのに入学してきたノールグラフ。魔力はないのを力技でなんとかしてきた人狼の娘みたいなんですが、どうもこれ、かなりの能力を秘めている、みたいな話なのかな。ほのぼの感はかなり強い。ええ、悪くないと思います。

『ミントシロップ』、これはいいですね。淡い色合い。アオリにはやさしくて、やわらかい時間とありますけれど、たしかにそのとおりだと思います。田舎の学校。帰りの電車でのちょっとした時間、ちょっとした会話の風景が描かれるのですが、スローで、しみじみとして、ちょっとしたこと、ちょっとしたやりとりなのに、いや、だからこそなのかな、ほっとさせられて、ああ、これはいいですよ。続けて、長く、長く見ていたいなって思える、そんな漫画です。

『こうりん駄天使さま』、これもいいな。ヒロインのやる気のなさといいますか、あるいはリアリストなのかな? 天使が降りてきたのを幻覚として片付けてしまう、そんなヒロイン、あやせがいい感じです。天使も困るけど、幻覚はもっと困るよな……。あやせはいい匂いがするらしく、天使がくる、悪魔もくる。悪魔のしあわせについての解釈、あれはいいですね。そっか、おぼれなかったらいいんだ。って、溺れるように仕向けるのが悪魔のような気もするのだけど。ともあれ、やる気のあるようなないような天使と悪魔に、間違いなくやる気のないヒロイン。ばたばたしながらもどこかクールなのがよい感じです。

まーぶるインスパイア』、ああ、私の部屋はもう手遅れ、腐海まっただなかです。しかし、部屋の片付けをするのはいいとして、全然進まないっていうのはよくある話。実際、この漫画は、それってよくあるなあっていうことを、とりわけ駄目な人にはよくあることを取り上げて、面白いなあ。寝溜めとか、無理と知っててもやってしまう。ただこうしただけのことが面白いのは、雰囲気、テンポなのかなあ。いい見せ方、個性のある漫画だとつくづく思わされます。

My Private D☆V。黒田bbです。って、最初、誰かわからなかった。『アクアリウム』の博かと思ったけど、あの人の回はとっくに終わってる。というわけで、黒田bbの好むところ、「うしろ姿」なのだそうです。イラストは、こちらに背を向けた女の子ふたり。ブレザーとセーラー。ボックスとプリーツ。ああ、これも素敵だな。そう思いはするのですが、やっぱり私としては、振り向いて欲しい! という気持ちがあるんですね。うしろ姿への開眼は遠い模様です。

  • 『まんがタイムきらら』第9巻第6号(2011年6月号)

引用

  • さかな45「ミントシロップ」,『まんがタイムきらら』第9巻第6号(2011年6月号),109頁。

2011年5月9日月曜日

『まんがタイムきらら』2011年6月号

『まんがタイムきらら』2011年6月号、発売されました。表紙は『ゆゆ式』、唯さんですよ。自転車に乗ってるところ。河川敷ですかね、ちょっととまって、ひょいと横に視線を向けた、そんな場面でありますね。肩から下げたかばんには、ゆずこと縁のマスコット。ああ、これすごくいい。こういうの、なんか可愛くっていいですね。UFOキャッチャーとかの景品にはいってそうです。

ゆゆ式』にはおどろかされました。いつもと同様、わかるようなわからないようなボケなのかツッコミなのか、それから唯いじりみたいな話だったというのに、不意に縁のエピソード、まじめというか、本音が語られてるって感じられる、そんな瞬間が訪れて、ああ、いつもなんだかぼけぼけしてる縁だけど、そうじゃないんだ。いろいろ思ったり、考えたりしてるんだ。そう思えて、ええ、とてもよかったです。若者らしい会話っていってますけど、たしかに、ほんとに、そうだったなって思います。しかし眼鏡ゆずこ、シリアス縁、おそろしい美少女たちだな。

『ねこきっさ』、終わりましたね。クゥが進学、高校生になりました、っていうんですが、わあなんだろう、なんだか微妙に違和感あるな。っていうか、もっと小さいと思ってたから驚きだよ。クリム、ルーシアとそんなに年違わないんだ。しかし、母との再会、そして将来への展望など語られて、いい最終回でした。ねこきっさが好きだという人たち。その様子、ほんとにぎやかで、けどただにぎやかなだけでないのね。ほんと、これまで好きで読んできた、そうした気持ちも彼女らのにぎわいに繋ってるような気持ちになれる最終回でした。

『箱入りドロップス』、面白いですよ。お昼をどうするか、手持ちのお金はどれくらいと話していたら、ナチュラルにカツアゲと勘違いされる陽一。不憫なんだけど、ほんと、その流れがすごく自然で素晴しかったです。で、先生、27歳なんだ。しかし、ほんと雫は可愛いし、それによくつきあってくれる陽一がいい人で、あの拍手とか、もう最高だと思う。空に大声でお礼とかも、単発のネタかと思ったのに、先生のメロンパンのネタがうまいこと拾って、ほんと、面白いです。雫のほのぼの、陽一のいい人ぶり。ほんと、面白いです。

『はるよみ』、いいですね。名前で呼ぶの呼ばないのって話なんですけど、ゆずの微妙に変態的なところとか、最高だと思う。文芸部ものの漫画なんですけど、なかなかそういう部ならではの話にならないのは、よくある話。今回は、基本に親しさ確認というか、自分の相手に対する距離感と、相手の自分に対する距離感と、微妙に違ってると感じられるのを擦り合わせたいってのがテーマになってたと思うんですが、あの書店での風景ね、結局、みんなそれぞれ個性的で、けど似た者どうしでもあるんだよっていうのが示されたの、うまかったなって思います。しかし、ゆずさん、ほんと好きになっちゃいそう。いいキャラクターですよ。

  • 『まんがタイムきらら』第9巻第6号(2011年6月号)

2011年5月8日日曜日

ねこのひたいであそぶ

 この漫画、連載の誌面、読むたびにですね、なにかわくわくとさせてくれるものですから、本当に好きで好きで、楽しみでしかたがないんですよ。なんにゃかの『ねこのひたいであそぶ』。中学生の女の子4人が、町で、学校で、自然の中で遊ぶ、その様が本当に楽しそうで、見ていてたまらないんですね。その遊びというのも、いつかどこかでやったことがある、そうしたものが大半で、だからこそでしょう、懐かしくって懐かしくって、ああ、昔、子供のころ、自分もこういうの、いろいろ遊んだものだったっけなあ。ざりがに採って、昆虫とって、星を見て、探検して、ダンボールで草すべりして。ほんと、苗たちの遊ぶその姿、見てるとどんどん気持ちが昔にもどるようで、ああ、またこうして遊んでみたいなあ、そんな気分になってしまうのです。

メインの登場人物は、最初にいったように中学生の女の子なんですが、けれど彼女ら、まるで男の子みたい、っていうか、ほんと、冒険大好き、探検大好き、マインドは男の子そのものといってよさそうな感じなんですね。ちょっと理系な中学生・苗、スポーツの成績(とノリ)だけはいイイ実紀 、本の世界にどっぷりな綾音、ファインダー越しに世界を見つめる羊子。女の子っぽいのって綾音だけかな? と思ったら、何考えてるか分からないとかいわれちゃってる羊子が意外に、といったら失礼か、思った以上に女の子で、ほんと、普段の様子だけでは判断しきれないこの子たちの個性にやられてしまうこともしばしばで、描かれる遊びで楽しみ、彼女らの個性、キャラクターで楽しみ、といった具合なのですね。

しかし、みな元気で、見ていてすごく気持ちのいい漫画であります。ほんと、どの子もすごくいい子で、みんな大好きなんですけど、とりわけ好きなのは苗かなあ。ちょっと理系と紹介されてる子ですね。冒険とか観察とかチャレンジとか実験とかが好きって感じなのでしょうか。この漫画のテーマというか魅力というか、それを一番に体現してる子であると思います。どんなものにも驚きや楽しみを見いだす、アイデアを出し、そして実行する、そんなマインドに溢れた子です。もちろん、こうしたマインドは苗だけでなく、他のみなも持っていて、誰かの発案がその日の遊びを決定するのだとしても、ひとりひとりで異なるスタイルがですよ、それぞれのやりかたで楽しみを深めていくことに繋がって、実に素晴しいのですね。みな、ひとりひとりが遊びの主体となって、それぞれのアプローチを見せてくれる。これがわくわくとする感じを盛り上げてくれるというのですね。

そういえば、先生、この人もいいんですね。苗たち4人を見て、まっすぐ育ってと願っている。その気持ちが嬉しいじゃありませんか。そして、この先生もまたいいキャラクターしてまして、楽しみに対してまっすぐだっていうところ、花咲先生もそうなら、種山先生もそうですよね。ほんと、見ていてすごくいい。かくのごとく、この漫画に出てくるのは、そろいもそろって、みなホモ・ルーデンスな人たち。遊ぶ人の魅力、それが満載されているのですよ。

  • なんにゃか『ねこのひたいであそぶ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2011年。
  • 以下続刊

引用

2011年5月7日土曜日

『まんがタイム』2011年6月号

『まんがタイム』2011年6月号、発売されました。表紙は、今月で創刊30周年、よって『おとぼけ課長』も30周年。30周年のたすきをかけたおとぼけ課長を真ん中に、『ラディカル・ホスピタル』榊先生や『みそララ』のお嬢さん3人組、『ナイショのおままごと』のふたりもですね。花吹雪や花輪、そしてドレスアップ。はなやかなお祝いの雰囲気であります。

そんなわけで、巻頭は『おとぼけ課長』、続いて『おとぼけ課長トリビュート』でありますよ。参加作家は、ひらのあゆ、むんこ、宮原るり、佐藤両々、重野なおき、東屋めめ、森ゆきなつ、安堂友子であります。それぞれがそれぞれに『おとぼけ課長』を描いて、皆それぞれに面白い。好みはといわれたら、ひらのあゆ、安堂友子かなあ。いや、でも、ほんと、こういうの楽しくていいですね。

『わさんぼん』は、若い職人たちの努力が光る、そんな漫画になってますね。持ち寄り菓子会に出品するべく、お題に沿った菓子のアイデア出しをしてるふたり。ほんと、仲がいいなと思います。頑張りながらも牡丹にちょっかいかける草太も、実にこいつらしいと思える、そんな雰囲気で、それなのにやるべきことはやってるというところ、大変よいなと思います。しかし、柏木狙いかといわれて気になって、否定しないでいいもの否定する萩くんがめちゃくちゃ面白かった。そして草太の緊張、失敗したことに気付いて、その理由も理解してと、自分の未熟を思い知って、けれどそれで必要以上に落ち込まない。勉強したとちゃんと思える、そうしたところ、すごいやつだなと思います。

『ニッポンのワカ奥さま』は、見事に安定してます。扉は季節感にあふれているし、ネタの数々、見えないコップをはじめ、時代やはやりを超えて楽しめる、そんなスタンダードさ。ものすごいと思います。今回のネタで好きなのは、あの飛び石の話。シンプルなんですけど、たまりませんね。絶品だと思います。

『華園の微男子』、楽しんで読んでます。公開授業。授業参観と思いきや、そうでない。男子の品定めときたもんです。女子ばっかりの学校に男子が。それで心配して? かと思ったけれど、先生のいうように公開処刑であった模様。値踏み、生写真販売、いやもう、そりゃひどい有り様で、とんでもない姉を持った山吹くん。学校にも家にも安らげる場はない模様です。

  • 『まんがタイム』第31巻第6号(2011年6月号)

2011年5月6日金曜日

『まんがタウン』2011年6月号

『まんがタウン』2011年6月号、発売されました。表紙には、おお、なつかしのゴマちゃんですね。なんと『少年アシベ』が復活するとのこと。アニメ化されるなどして、それこそ一世を風靡する勢いでしたね。で、復活連載するのですか。ちょっとなぜ今復活なのだろうという気もしますが、でも懐かしく思って読む人も多そうに思います。と、表紙にはほかに『新クレヨンしんちゃん』、そして『偽装男子』のカットがのっています。

『偽装男子』はとても素晴しい。男とつきあうことを許さない、そんな厳しい母を持った瀬川あやか。彼女のことが好きな男子水城歩は、あやかの母のチェックをすり抜けるため、見事に女装してみせるのですが、なるほど流行りの女装男子ものなのね、と思ったら大間違い。どう見てもですよ、歩のライバル、彼らの素晴しすぎる女装、これがメインでしょうよ。見るだに笑いが止まらない。あやか好みに染まった奴らの勇姿、ああ、なんて可憐なんだろう! もう、たまらん。そしてあやかの自問自答、こいつもたまらん。ほんと、こういう無茶なネタ、この作者の持ち味が見事に発揮されていると思います。

『派遣戦士山田のり子』は、なんと、のり子、新たな局面に進みましたね。以前から登場していた、のり子に恋心抱いていた彼ですよ。ついに彼の気持ちにのり子が気付いたというんですね。これまでどうしても気付いてもらえない、そうした展開が続いていたわけですが、ここにきてばっちり気持ちが通じて、そしておつきあい申し込んだりして、しかも、のり子もまんざらでもなかったりする? これはいい。これは素晴しい。ええ、心から応援したいところでありますよ。

『魔法女子高生トラノイーカルナ』、後藤羽矢子の新作です。なんと、変身ヒロインもの。ヒロイン、カルナは正義感あふれる女子高生であるのですが、見た目に可憐なために、注意しようともちっとも聞き入れてもらえないというんですね。そんな彼女がであった不思議な生物。宇宙人? デヌエにもらったDNAメモリー・スティックを使って、他人に変身するっていうんですね。初回の変身は、なんとスキンヘッドのヤクザさん。って、夢も希望もないな! ところでタイトルの、トラノイーカルナって、虎の威借るな、なんですね。なるほど、今後の展開をうかがわせるタイトルです。

『みねちゃんぷるー』、最終回であります。先生の結婚式の風景。その誓いの言葉をめぐって交わされた三人の言葉、それぞれがとてもよかったんですね。雅のいう、もしかしたら将来気持ちは変化していくのかも知れないけれど、今のしあわせを将来にも持ち続けたいと願う気持ち、すれ違うことがあったとしても、そう願うほどに相手を好きでいたという事実が大切なんじゃないかという、そうした言葉がしみますね。そして、三人で友情の誓い。ただ願うだけでなく、一緒にこのしあわせが長く続くよう、努力していこうという、その気持ちの描かれるところが素敵だったなって思います。それはともすれば忘れがちなことで、特に相手がいて当たり前になった瞬間に、その人とともにあれることへの感謝やしあわせと思う気持ちの軽んぜられてしまう、そうした話はよく聞きます。だからこそ、言葉にして誓う意味もあるのかな。その誓いは、その時だけの誓いではなく、常の日、いつも心のどこかに大切にしまわれてないといけないものなのだな。そんなこと思わせる、三人の姿、最終回でありました。

  • 『まんがタウン』第12巻第6号(2011年6月号)

2011年5月5日木曜日

『まんがタイムジャンボ』2011年6月号

『まんがタイムジャンボ』2011年6月号、一昨日の続きです。

『桜乃さん迷走中!』、味わい深いスタートです。お母さんを安心させるため、仕事は順調と嘘をつく。けど、状況わかってる大江さんからしたらおかしくてしかたなくって、とはいうものの、ここはやっぱりちゃんと説明して帰るべきだと思うんだ。というのはいいとして、面接ですよ、面接。実際、こういう状況に陥ったら、どうやって倒産を説明したらよいのだろう。小さい会社、企業だと、特にこういう夜逃げ同前の倒産だと、どうもこうも証明できないような気がしますよね。などなど考えて、ほんと不況っていやだなあ。でも、バイトでもなんとか決まったというのはよかったなって思います。けど、ずっとバイトでがんばるって漫画ではないような気がするんですね。きっと、転職していくんだろうなあ。

『はなな大増刷』は、けがしたはななを送って先生が叔母さんと出会う、そんな話。ええ、きっと先輩、後輩に違いない、そういってましたが、まさにそうでしたね。対面、けれど郁子ちゃん、パックなんてしてたから、すぐにそうとはわからない。まずは先生の落としたネームから。そして、先輩、後輩と気付いて、ああいい場面でした。すっかり大人になってる、成長もしました、けど変わらないところもあるんです。懐かしく思い出すこともあり、ええ、ほんとにいい場面でした。そして制服。あれは面白い。ほんと、仲良いふたり。素敵なエピソードでした。

『すいーとプロミス』、姉はべた惚れ、妹はツンデレ、そんな漫画であるわけですが、主人公光介の姉を選ぶか妹を選ぶか、それまでの気持ちのいったりきたりを楽しみたい、そう思っていたところ、ええっ、光介のお母さん、日本に戻ってくるんだ! これは晴天の霹靂。はたしてこれで収束に向かうのか、あるいはこの状況でまだ同居を続けるとなるのか。もしかしたら終わってしまうかもと不安ぶくみでありますが、ここからなお続けば素晴しいな、そう思っています。

『交換留学生ルーシー!!』、変わらずいい感じです。今回は写真についてのもろもろで、なんとルーシーはカメラが怖いのか。ベタな迷信、けれど悪魔がいうと信憑性があがる感じでありますね。そして、突然カメラ向けられても、ちゃんとポーズを決められる光希が素晴しい。しかし、明日磨と一緒の写真を取りたいのに、それを言い出せないとかね、気が強い、いいたいこといえる、そんな風に見せて、全然そうじゃないってところがいいなって思うんですね。最初はカメラを怖がってたルーシーも最後には慣れて、みんなと一緒の写真を残せて、こういう、思い出づくりじゃないですけど、なかよしの記録みたいな話ね、いいなって思ったんですね。ほんと、ルーシーがすごくいい子で、この漫画、大好きです。

  • 『まんがタイムジャンボ』第17巻第6号(2011年6月号)

2011年5月4日水曜日

放浪息子

 今日はいろいろをお休みして、一日『放浪息子』を読んで終わったという感じでした。最初は一冊だけ、2巻ですね、読んで終わるつもりだったんですけど、もう一冊もう一冊と重ねてしまいまして、結局11巻、現在出ている最新の巻ですね、まで読んでしまったのでした。しかし、面白いです。アニメから入った私ですが、あれって結構大胆にアレンジされてるんだ。いや、大きな改変があるとは聞いていたんです。でも、その改変って、この、彼ら、彼女らの物語を、12回という限定された時間内で展開しまとめるには必要なものだったんだ、そう思える、非常に納得性の高いものであったんだとも理解して、アニメの制作者たちは、『放浪息子』という物語を前に、臆せず立ち向かったんだなあ、そんな気持ちになったのですね。

さて、そんな原作『放浪息子』。これは、やっぱりすごいものだなって思いました。登場人物はたくさんあって、メインこそは女の子になりたい男の子、二鳥修一と、男の子になりたい女の子、高槻よしの。ふたりがメインであるのですが、このふたりで物語は完結せず、姉弟、友人それぞれの気持ち、思っていること、そして彼らの経験する出来事、丁寧に描かれるのですね。『放浪息子』という物語、それを生きているのは二鳥修一で高槻よしのであるけれど、この漫画の登場人物ひとりひとりが間違いなく自分の物語を生きている。そうした存在感をしっかり持っていて、その総体が『放浪息子』であるのだと思える。それこそストーリーを動かすための機能として用意された、そんな人はひとりもいないんだ。みんながみんな、大事な人なんだ、たとえ私がその人のこと好きになれないのだとしても、そう思わせる力を持って、私の前にぐーっと立ち上がってくるのですね。

アニメ『放浪息子』を見た時の感想に、これは、ここに描かれた時間、それだけの物語なのではなく、描かれる前の時間、そこにも彼らは生きて、暮らして、多くを思ってきたし、そしてこの後の時間、これからの時間にも彼らは生きて、暮らして、多くを思っていくんだろうな。そうしたものがあったんですね。そう思ったのは、原作が小学生の頃からの彼らを描いて、そしてまだ完結していない、そうした知識もあったからなのかも知れない。けれど、原作を読んで私は、やっぱりその思いを強くして、そう、私が誰かと出会って、その人のことを知っていくとき、この人には私と出会うまでに生きてきた時間があったんだな、その知らない頃の出来事、それに思いを馳せる、そんな感覚に似ている。私はそれについて知りたいし、けれどその経験をともにすることはできなくて、だからせめて今、ともにいる間のことだけでも一緒に経験していきたい。そんな気持ち、そんな思いがする物語、それが『放浪息子』でした。

『放浪息子』の面白いのは、女装少年や男装女子、異性装主人公の物語だからではなくて、自分はいったいどのようにありたいのだろう、それに思い悩んでいる人たちの物語だからなのだとも思います。私はたまたま、男としての自分を否定したかった、女として生まれたかった、そう思っていた時期があったものだから、ことさらににとりんやマコちゃんに感情移入するのだろうけど、でも、そうありたいと思う理想的自分と現実の自分のギャップに苦しんだ人は多いはず。いや、そうした苦しみを感じたことのないという人はいないんじゃないでしょうか。なんで自分はああなれないんだろう。なんであのポジションにいるのが自分ではないのだろう。なんで自分はこんなにも生きづらいんだろう。そうした思いを、まさに『放浪息子』の彼ら彼女らは抱いていて、思って、悩んで、苦しんで、ぶつかりあって、だからこそこれを読む私の心は忙しくなって、時に息苦しくなって、けれど愛さずにはおられない、そんな気持ちになるのだと思います。

『放浪息子』、おまけの作者身辺記も含めて読んで、私は、本当ははみだしものの癖して、妙に分別臭く考えて、分別くさく生きてきた。つまらない生きかたしてきたもんだなって思って、なんだか溜息つきたくなるような、アンニュイな気分になってしまって、人は自分の人生を生きるのに、それこそもっと子供っぽく、自分が、自分を、といった気持ちを押し出した方がいいんじゃないかな。そんなこと思ってた。そしたら、表紙の『放浪息子』というタイトルを見た母に、お前のことかと笑われて、ああ、彼らのような頃に充分に放浪しなかった私は、今もなお放浪していますよと、言葉にはしなかったけれど、答えたのでありました。

『放浪息子』、この物語はまだ終わっていないけれど、だからこそ、皆がしあわせになってくれたらいいな。そうした気持ちでいます。

  • 志村貴子『放浪息子』第1巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2003年。
  • 志村貴子『放浪息子』第2巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2004年。
  • 志村貴子『放浪息子』第3巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2004年。
  • 志村貴子『放浪息子』第4巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2005年。
  • 志村貴子『放浪息子』第5巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2006年。
  • 志村貴子『放浪息子』第6巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2007年。
  • 志村貴子『放浪息子』第7巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2007年。
  • 志村貴子『放浪息子』第8巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2008年。
  • 志村貴子『放浪息子』第9巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2009年。
  • 志村貴子『放浪息子』第10巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2010年。
  • 志村貴子『放浪息子』第11巻 (ビームコミックス) 東京:エンターブレイン,2010年。
  • 以下続刊

Blu-ray

DVD

CD

2011年5月3日火曜日

『まんがタイムジャンボ』2011年6月号

『まんがタイムジャンボ』2011年6月号、発売されています。表紙のテーマはパンダみたいですね。って、なんか珍しいな。というわけで、『じょしもん』美々はパンダの帽子をかぶって、『桜乃さん迷走中!』はパンダの着ぐるみ、というか、パジャマなのかな? ぬいぐるみを抱いているのは『レーカン!』天海さん。『おねがい朝倉さん』は、子パンダなのか? じたばたしているのを抱きかかえています。

『うち楽。 — 天野さんちの4姉妹』、師走冬子の新作、ゲストです。4姉妹もの。長女から花鳥風月になっていて、長女花美は養護教諭、次女鳥美はニートで、三女風美は女子高生。四女月美は小学4年生であります。初回はニンジンの話。いちごのおまけにつられて、家族全員嫌いだというのに、ニンジンを買ってしまった風美。ニンジンを姉妹ひとりひとりに押し付けようとしてる? あるいはどうやって消費しようと知恵をつのる、そのやりとりでもってキャラクターの紹介をしていくのでありますね。しかし、みなわりとまともそう。って、ひとりニートとかいるんだけど! って、けど師走漫画にしては、皆おとなしめに思える布陣でありました。もしかしたら、ものすごいものを隠してるのかも知れませんね。

『炊飯器少女コメコ』、ゲストです。ひとり暮らしする学生、吉行尊のもとに実家から送られてきたのは炊飯器。ただこれがちょっと特別、可愛い女の子の形で嬉しいですね? って、おいおい、こんなの送られてきたら、米炊く以外の用途に使っちゃいそうだよ。これ、人の姿をしているだけでなく、ある程度の自律性も持っているようで、けどそうした人のかたちをしたモノの、頭が開いて炊飯器になるというのね、見ために非常に問題ある感じ。もっとロボロボしかったらいいんだろうけど、ここまで人に近い姿してると、やっぱり炊飯器としての運用には支障がありそうで、という以前の問題として、ちゃんと機能してないよな……。なんともいえぬ漫画です。

『先生だって嘘をつく。』、ゲストです。女子校で働くこととなった新任教員大神。採用の理由にモテそうにないというのがあって、同僚と一緒に傷付いたりしてるんですが、それってつまり、生徒とつきあうとか、完全に御法度で、もしそんなことになったら解雇よ。そういう状況であるみたいですね。ということで、2日前からつきあうことになった彼の恋人、その子がなんと担任することになったクラスにいた! 大神の明日はどっちだ!? どうやら、そういう展開みたいですね。最初、その彼女さん、高村さんが先生をハメたりしたのかな、なんて思ったんですが、どうもそうではない模様。この子も一緒に焦ってる、そんな風であります。ベタといえばそうかも知れないこのシチュエーション。けど面白そうだななんて思います。

『花の任侠物語』、ゲストです。由神組の一人娘、静がヒロイン。ずっと学校に通えなかった。そんな女の子。小学校をスキップし、中学校もスキップし、高校からはじまる憧れの学園生活。いえね、病弱とかそういうのではなく、家の事情が理由。他の組との抗争やらなんやら、危険だからおいそれと外には出られなかった、なんていうんですね。そんなわけで、世間一般の常識を知らずに育ってしまった任侠系箱入り娘の静。彼女の、おそらくは非常にずれてしまった学園生活。次回にはいよいよそれが描かれるんじゃないか、そんな期待がなされます。

  • 『まんがタイムジャンボ』第17巻第6号(2011年6月号)

2011年5月2日月曜日

『まんがホーム』2011年6月号

『まんがホーム』2011年6月号、発売されました。6月号、季節先取りですね。表紙には傘やあじさいが見てとれて、ちょっと梅雨の風景? 『らいか・デイズ』をメインに、『そよ風そよさん』、『夫婦な生活』、『椿さん』、『うさぎのーと』のカットが表紙を飾っています。椿さんの傘は、いつもより多めに回してるっぽいんですが、あれ、あじさいとかてるてるぼうずとか、なんだか可愛いですね。

『紫乃先生〆切前!』は、なんと、清野さん、知ってたんだ。紫乃先生が別名義でエロ小説書いてる。でも、このこと、意外に知られちゃってるというか、かまかけられて漏らしはしないものの、態度でばればれになってるとか、ほんと、隠し事に向かない人だな、そんな話です。けど、紫乃さん、外の人に対してはこうだけど、弟和泉に対してだったら、しれっと平気で嘘をつきとおせるんだろうな。そんな風に思えてならないんですね。しかし、清野さん。なかなかにいう人ですね。ほんと、おそろしい。

『センセイあのね?』、なんと、つぐみさんばればれなんじゃないですか。つぐみの反応を面白がって見ていたマリだけど、そのマリの反応もまた薫子に面白がられてという、こういうの見ても、三人の関係、よいものになっていきそうなんじゃないかな。そう思えていい感じです。っていうか、薫子さん、友達いないって先生から心配されてたんだ。クールに見える人だけど、こういうのに悩みを感じたりしてたのかな。なんか可愛いなって思えます。そして、つぐみに対する薫子あらためルコの反応。わお、これはなんというの、素敵! ええ、面白い。これは見逃せない、これは期待してしまいます。

『恋に鳴る』。「カッコー カッコー」は青信号 「カッコー カッコー」は「進め」の合図ってのはいいんだけど、今回の話はつまり「行きはよいよい帰りはこわい」だったんじゃあないですか。でも、そうした状況にあったヒロインが、気持ちを改める、そんな展開はよかったですよ。でも、今回で一番よかったのは、ちょっとしたことで気持ちがつながった、そう思えて付き合うようになったのが、ちょっとしたことで気持ちが離れた、そう思えてしまって破局にいたってしまった。それは不幸なことなんだけど、そうやって気持ちが浮き沈みするっていうのがね、なんだかいいなって思ったんですね。失恋したいわけじゃないけれど、なにもない、穏かな日常を求めてる私が失ってる感情、それが描かれてるなって思ったんですね。

『腐女子主婦がゆく!』、これはなんかすごいぞ。青沼貴子の大告白。BLが好きだったのか。って、今となっては別に普通の告白とも思うんですが、いやしかしBLを描こうという、その道のりを描くっての、ほんと先が見えなくて、変に面白いと思ってしまいました。芳文社なら『花音』があるから、そっちに応援求めたりするのかな。最終的に、BL誌でデビューしてもできなくても、ネタになることは間違いない。そんな感じだから、無難といえば無難な企画かも知れません。申し訳ないのですが、私は青沼さんのBLはちょっと読みたいと思わないんですけど、どうせならそんな失礼なこと思ってる私が、まいりましたといってしまう、そんな結果が出たらいいななんて思ってます。

  • 『まんがホーム』第25巻第6号(2011年6月号)

引用

  • 山名沢湖「恋に鳴る」,『まんがホーム』第25巻第6号(2011年6月号),126頁。

2011年5月1日日曜日

もっかい!

 この漫画の第一回を見た時には、なんかこれすごいぞ、そう思ったものでしたっけね。絵柄の持つ雰囲気があまりに独特で、普通ならトーンあたりで処理しそうなところが、なんとハッチング、とはちょっと違うかな? 制服の襟とかがですね、カケアミではないんだけど、そんな風に表現されてまして、うわ、なんだか目がちかちかするよ! けど、なんか面白そう、そう思わせるものが確かにありまして、一発で気にいったのでした。ええ、最初は絵と雰囲気、そこにひかれたというのですね。

でも、ほどなくして内容にもがっちり引き込まれまして、優等生の衛と問題児の遊、ふたりの毎日のどたばた生活、それが面白くてですね、どんなことでも遊びの種にしようとする遊、新しい競技を考案して、それで問題おこして、先生に怒られて、みたいなパターンなのですが、いやあ、一味違えてきましたよね。遊のフォローばかりしている衛、そう思っていた、そういう見方がそもそもの早とちりだったんですよ。衛は確かにいい子で、常識的に振る舞う人であるのですけど、なんでもかんでも優秀なわけじゃなくて、優秀なのは体を使ったこと、運動とか競技ですね、ほぼそのあたりに限定されていて、じゃああとはというと、成績はあんまりよくないし、朝も起きられなかったりするしと、無条件にいい子ってわけじゃないんです。

じゃあ、遊はどうなのか。ええ、無条件に悪い子、問題児というわけじゃないんです。負けず嫌い、アイデアの王様、あんまり体が強いわけでもないのに妙にタフだったりして、そして意外にもすごく成績がいい。どうも根が真面目にできてるみたいで、できないことがあったら、ちゃんとできるように、なんどでも基礎からやる、そんな性格みたいなんですね。そうしたところ、あちこちに描かれていたんですが、一番わかりやすく描かれたのって、あの逆上がりの回でしたね。先生はむしろ懲罰的な気持ちで居残りを命じたのに、遊ちゃんものすごいやる気で、まず初日に先生を潰す。そして翌日、衛を潰す。あれは素晴しかった。遊ちゃんという人が、一体どういう人なのか。ものすごくよくわかる話でした。またその途中に描かれた、衛と遊の関係が誤解されるみたいなエピソードなんかもすごくおかしくて、いやもう大好きでしたね。

この漫画が好きな理由、それはなにより読んでいて楽しかった、ついつい引き込まれてしまう魅力があったからなのですが、それだけでなく、衛と遊の関係、それが本当に素敵だったというのも大きいのですね。身体能力に関しては天才的な冴えを見せる衛。けれどそれが常にいい結果を出すわけでなく、むしろやっかまれたり、嫌なことも少なくなかった。そうした思い出が衛の気持ちを縛ってたりもしたんですよね。けど、遊を相手にする時だけ、気兼ねなしに思いっきり遊べる。ぱっと見には、遊に迷惑かけられてばかりいる、そんな風に見える衛ですが、本当、彼女らは持ちつ持たれつなんだなって。互いに替えのきかない、そんな関係。実にベストフレンドというしかない、そんなふたりなんですね。普段は、仲良くにぎやかに騒いでる、そうした姿に、決して大げさにならない、そんな友情が沁み透っている。ええ、そうしたところがすごくよいなと思っていたのでした。

  • 4224『もっかい!』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2011年。