『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』、完結です。ゲーム『フロントミッション』をベースに戦争を描きあげた、そうした実感を与えてくれる漫画。第1巻を読んで圧倒された、その感触はいまだに忘れていません。ロボット兵器による派手な戦闘描写。しかしそれよりも以上に、戦争状態におかれた人間の心理心情を描いて、ああ、なんだろう、悲しいねえ。戦争なんてクソの山だ。死にたくない、けれど殺さなければならない。誇りを胸に死んでいく兵士があれば、巻き込まれるままに死んでいく市民もあり、そして弱者に対する暴虐。それら殺戮の描写たるや凄惨極まりなく、けれどそれを見たがるのがお前らだろう? ええ、ここに仕掛けがあるのです。
描かれる戦闘、殺戮、それらはひとりのジャーナリストによって撮影され、ネットに拡散された映像であるというのですね。遠いところで繰り広げられる残虐ショーを、安全な国、場所から、興味本位に覗いている。そうしたギミックがところどころに差し挟まれることで、迫力あるバンツァー戦に引き込まれるようにして読んでいる私は、冷や水あびせられたように自分の位置を意識させられ、ああ、戦争を、人の生き死にを、娯楽、エンタテイメントとして享受するグロテスクを突き付けられる。当事者となりえないことを知っている人間の傲慢さをあげつらう
。戦争や兵器というものに対する興味をあからさまにする態度は、この漫画に嫌というほど描かれた、より残虐、より凄惨な絵を求め暗躍する自称ジャーナリスト、犬塚研一、この醜悪そのものといった男のそれに変わらない。犬塚こそは、お前の一面なのだよと告げる。そうした意思が強く感じられます。
戦場の透明人間、犬塚による戦争のつまみ食い。エピローグにおいて描かれた状況 — 、熱心にデモに参加する民衆や、国民を無知蒙昧の愚民と嘲る公安、それにジャーナリスト気取りたち。誰しもが傲慢で、どこにも正義などありはしないという感触にあふれて、見事でした。そして捕えられた犬塚が再び透明人間に戻ろうというその時の言葉、美しくて汚ない人間の鈍い輝き、それは詭弁に過ぎないのか、あるいは一面の真実であるというのか。簡単には答えることのできない、そんな問い掛けでありました。現実味を持たない人たちのお祭りとしての戦争、社会をコントロールしているという奢りを持ったものたち。怪物じみた犬塚は、そうした戦争を弄ぶ連中の思い上がりや醜悪の交差するところに生じる、私たちの本性そのもの、写しであるのだといわんがばかりのラスト。この漫画は、やはり、戦争というものをとりあげて、戦争というものを抱える私たち人間や社会にこそ焦点をあてている。そして、クソまみれの世界と、そこに確かにあるかも知れない真実。そいつを、結局はクソなのか、やつのいうように鈍く輝くなにかであるのか、自らの実感をたよりに探ってみろといわんがようでありました。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第1巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2007年。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第2巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2008年。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第3巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2008年。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第4巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2009年。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第5巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2010年。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第6巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2010年。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第7巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2011年。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第8巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2011年。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第9巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2012年。
- 太田垣康男『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』第10巻 C. H. LINE作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2012年。
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