先だって読んだ『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』、やっぱり面白くてですね、引き込まれて、いろいろ思わせられて、しかしこれで読みおさめかあ、そう思っていたら、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』、こんなのがあるっていうじゃありませんか。ええと、実は知ってました。発売当初、書店にて見かけて、けれど表紙がなんか泥臭いなと、最近たくさん出てるガンダムもののひとつだろうか、とりあえず読む必要ないかな、そう思ってさらっと流したのでした。『FM DL&DS』の人とは全然気付いてなかったのですね。しかし知った以上は興味がつのる。こいつはぜひ読んでみないといかんな。ええ、買いました、そして読みましたよ。
いや、面白いです。舞台は一年戦争末期、サイド4跡地、通称サンダーボルト宙域にて繰り広げられるジオンスナイパー部隊と連邦モビルスーツ隊の激戦です。しかし、この作者、一貫してるといってよいものでしょうか、ただのロボット戦、エースパイロットの活躍するエンターテイメントとはしないんですね。ジオンの部隊も連邦の部隊も、まさに弱者の寄せ集め。連邦は、破壊されたサイド4、ムーアコロニーの生き残りである「ムーア同胞団」。ジオンは義手義足をつけて戦う負傷兵により組織される「リビング・デッド部隊」。誰も戦争なんてしたくない。平和だったころを思いながら戦いから逃れられない。行き場のない家族に平穏な暮らしをさせるために戦い続けなければならない。この戦場では、誰も彼も、追われ、失い続けながら、ほんのわずかなおこぼれを貰うために、命を死地に晒しているのですね。そんな彼らをみじめとは思わない、哀れとも思わないけれど、常に戦争とは、弱者から搾取し、弱者を利用し尽そうとする営みなのだな、そうした思いを抱かずにはおられませんでした。
連邦側主人公は、かつてのムーアコロニー首長を父に持つイオ・フレミング少尉。ジオン側は戦争が始まったため地球を追われ難民となったダリル・ローレンツ曹長。双方、故郷を追われたものなんですね。名家に生まれたため軍人となることを余儀なくされたイオ。母と妹のためにジオン市民権を得ようと義務としての兵役を果たすダリル。戦果をあげたふたりがそれぞれたまわった地球連邦本部そしてギレンからの激励。果たしてそれは誉れなのか。どう見てもそうではないんですね。ジオンの補給ルートを断つべく危険な宙域に投入されるイオ。対し重要宙域防衛のため充分な補給もないまま連邦強襲部隊に対峙させられるダリル。エースパイロット、英雄として祭り上げられる彼らの行く末は、国、連邦のために働いて死ぬ捨て駒なのだな。ああ、戦争というのは金も命も浪費して、虚しく悲しいものなのだ。国という巨大な肉挽き機に取り巻かれざるを得ない、弱い立場に追いやられたものたちの悲劇と、その彼らが放つ輝き、それが切なくも眩しい、そんな漫画に仕上がっています。
最初、この漫画に持った印象、表紙に見た泥臭さ。それは実際、本編からも感じられて、決してスタイリッシュとはいえない重装モビルスーツの群、またガンダムに親しんでいればいるほど違和感を感じるモビルスーツ設定、ジムにコアブロックシステム、見慣れぬコアファイター、その他もろもろ、けれどそうした違和感は読み進むほどにどうでもよくなって、それはやはり戦場に命を晒す若者とその周辺、骨太に描かれる人間とドラマのためなのだと実感させられます。クソのような戦場、そこに漂う空虚や怒り、そしてたとえどのような状況であろうと懸命に生き残ろうとする生命の苛烈さ。それらが紡ぐものは、ガンダムという枠を超えた普遍的な物語である、そう感じないではおられない。それゆえでしょう、どうにもこうにも、ひきつけられるのです。
- 太田垣康男『機動戦士ガンダム サンダーボルト』第1巻 (ビッグ コミックススペシャル) 東京:スクウェア・エニックス,2012年。
- 以下続刊
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