『乙女王子 — 女子高漫研ホストクラブ』は、『まんがタイムきららフォワード』に連載されていた漫画です。小形ひよなが入部した漫研は、ろくに部室も貰えていない、ろくに活動もしてこなかった、そんなありさまで、その帰結が同好会への格下げ、部費全額カット。このままでは、なにもやらないうちに終わってしまいそう。どうする!? といった危機状況から始まって、しかしその打開策が奮っていました。ホストクラブをやろう! しかし、ホストクラブのどこに逆転の可能性があるというのでしょうか。
それは、目下の敵である生徒会副会長の弱点をリサーチした結果であります。三つ編み、眼鏡、デコという、堅物を絵に描いたような彼女。しかし、ひょんなことからばれた美男子好き。そこに付け込んで、篭絡してしまおう。よってホストクラブというわけです。そんなあほな! いや、あほな話だと思いましたよ。正直、『きららフォワード』誌で一二を争うあほ展開だと思ってるんですけど、このあほさ加減がいいんですよ。部の存続を賭けたホストクラブ。しかも、舞台は女子校。男子なんていないから、部のみんなで男装してのおもてなしときた。これは、いい。これはしびれました。もう、大好き。もう、どんどん調子にのって、頑なな副会長、比田井ひかるを気持ちよくしてあげて欲しい! なんて思ったものでしたよ。
『乙女王子』は、部を存続させるために敵を篭絡し、そしてついでに部費も稼いじゃう漫研の面々の頑張りを見て楽しんで面白がる、そんな漫画かと思っていたら、どんどん比田井ひかるにフォーカスが移っていって、しかしそれがもう本当に素晴しいの。夢壊されて怒ったかと思えば、思い描いていた夢が具現したかのようなロドリゲスに夢中になって、冷静さ失い強権発動するかと思えば、嫉妬振り撒くは、混乱して拒絶するは、最高。可愛いのなんのって。恋すれば、人は誰でも心揺らすものだと思うけれど、それにしてもあんたは揺らし過ぎだ。でも、恋に心乱している女子というのは可憐であるなと思わないではいられない、そんな描写の連続で、あんなにピリピリしていた人が、今ではこんなにも甘くほころんでいる。素敵すぎ。しかし、彼女の目にはロドリゲスがどれほど魅力的に映ったというのでしょうね。
でも、こうしたコミカルなラブコメ? を描いてきて、途中にはロドリゲスを演ずる昌の不思議設定なんかもばんばん出てきて、基本コメディすなわち喜劇であるのですけど、それがしかしあのクライマックス! 素晴しかった。思い余って思いの丈をありったけぶちまけてしまったひかるに、昌が自分の言葉で語りはじめる。彼女の本心に触れた — 。その真っ直ぐな思いを受け止めて、そして発された真摯な言葉が感動的でした。思いやりに溢れた言葉。それからの数ページは、もう涙なしでは読めない。恋の終わりをはっきりと自覚しつつ、けれど暖かな友情に包まれている。屈指の名シーンでありました。切なく美しく、やさしげで、ちくりと心に痛みを残しながらもしあわせと感じさせる。アンビバレントな感情に揺れる乙女の胸中、その思いが読んでいる私にも流れ込んできて、胸がいっぱいになるのですね。
小粒ながらもきらきらと輝く、宝物のような漫画であったと思います。そして、最終話、漫研の面々の本来の頑張りにフォーカスが戻って、そして描き下ろしの後日譚。ささやかながらも、彼女らが達成したものを思うとおのずと嬉しさが込み上げてくるようでありました。それはこのホストクラブ騒動を楽しく眺めているうちに、私自身篭絡されてしまったってことなのかも知れません。大好きな漫画でした。きっとこれからも好きであり続けるだろうと思います。
- 888『乙女王子 — 女子高漫研ホストクラブ』(まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2009年。
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