いかすなあ、山口貴由。なんかね、『シグルイ』がテレビアニメになるそうじゃありませんか。帯によれば、7月よりWOWOWで放送開始なのだそうで、やっぱり地上波は駄目だったか。だって、血しぶき飛び散るくらいならまったくもって普通の範疇、身体が切り刻まれ臓腑がぶちまけられるくらいまでいくのが山口貴由の表現なのです。けど、このへんの見せ方、『シグルイ』がはじめてのことではなくて、山口貴由出世作である『覚悟のススメ』においてすでに現れていたのですね。いやはや、驚きましたよ。『シグルイ』アニメ化のためか『覚悟のススメ』が大判になって再登場。私はこの漫画好きだったけど、借りて読んだに過ぎなかったから、いつか欲しいと思ってきて、だからこれはいい機会とばかりに買って、そして読んだのです。そしたら、まあ。第一話、始まったと思ったらもう臓物ぶちまけてて、これ当時の読者には引いてしまったという人も多かったんじゃないかなあ。いや、『チャンピオン』だから大丈夫か。
久しぶりに読んだ『覚悟のススメ』は、もしかしたら『シグルイ』に随分と劣るのではないか、表現もなにもかも若く浅きにとどまってるのではないかという私の心配をきっぱりと裏切って、見事天晴れの熱中の出来。これが出世作になったのも当然。改めて納得させるだけの濃密さを持って世界が屹立しています。
主人公は葉隠覚悟。高校生にして旧日本帝国軍の遺産 — 、零式防衛術、零式鉄球、そして強化外骨格零を身に付け戦う正義の戦士。敵は兄
しかし、本当にすごいのは中盤以降、後半なんじゃないかと思うのです。最初から思いっきり飛ばしているその速力は維持したままで、学友との関係を描き、兄との対立を描き、そして覚悟と英霊たちの対峙、散の胸中に渦巻くもの、そして罪子への愛。それらが、おそらくは当初に予定していた以上に盛り上がり深みをもって、ラストは手塚治虫的ミュージカルショウ世界に決着する。これは本当に類いまれなる作品であり、そして傑作。絵に、表現に受け入れがたさを感じて読めない、あるいは読まないという人がいたら、それは非常に残念なことなのではないかと思います。私も本来ならばこの手の表現画風作風に抵抗を示すところであるのですが、人に勧められるままに読めばすっかり魅了されてしまった。山口貴由という人は、こと魅了ということに関し、非常にまれな能力をお持ちであると感服する次第です。
しかし、魅了されてうんぬんいってる私がいうのもなんなんだけど、この世界観、ちょっとまともじゃないよね。枠組みとしてはむしろオーソドックスなんだけれど、見方というか視点がというか、とにかく常軌を逸している、そんな気がするんですが、けれどこの尋常の域にとどまらないというところが山口貴由の魅力なんだろうと思うから、これはこれでいい。いや、むしろこれがいいのです。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第1巻 (チャンピオンREDコミックス) 東京:秋田書店,2007年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第2巻 (チャンピオンREDコミックス) 東京:秋田書店,2007年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第3巻 (チャンピオンREDコミックス) 東京:秋田書店,2007年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第4巻 (チャンピオンREDコミックス) 東京:秋田書店,2007年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第5巻 (チャンピオンREDコミックス) 東京:秋田書店,2007年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第1巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1994年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第2巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1994年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第3巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1994年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第4巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1995年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第5巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1995年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第6巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1995年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第7巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1995年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第8巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1995年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第9巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1996年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第10巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1996年。
- 山口貴由『覚悟のススメ』第11巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1996年。
- 山口貴由『覚悟のススメ — 強化外骨格瞬着編』(秋田トップコミックスW) 東京:秋田書店,2004年。
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