微妙なセンスが売り(?)の女子スリーピースバンド、サイダースとその活躍を描いた漫画『サイダースファンクラブ』がついに完結。全2巻と聞くとなんだか短く感じられてしまいますが、そこは四コマですから、何年というスパンで物語は進んでいます。アマチュアから事務所所属すなわちプロになるところから始まって、数々のライブ、シングル発売からファーストアルバムが出て、そして二巻ではセカンドアルバム。これだけのいろいろをわずか2巻というサイズで展開できたのは、四コマ漫画というスタイルゆえだったのだろうと思います。しかし、1巻時点では三つ巴でわいわいやっていたサイダース、バニーズ、ウォルナッツ(ウォルナッツが若干のリード)なのに、2巻となれば随分状況が変わってしまって、この微妙な浮沈というのが変にリアルな感じがして、シビアといえばシビアなのか、けど基本ギャグの四コマだからあまりに強いシビアさを押し付けるということがないのはよかったです。
第2巻の見どころはというと、バニーズの去就と再起なんじゃないかと思うのですが、第1巻時点では基本的にサイダースの三人が軸になって展開していたのが、第2巻では積極的にバニーズメンバーも加わってくることで、微妙な2バンドのライバルだけど仲が良いという関係性が色濃く出てきて面白かったと思うのです。思えばこの傾向は1巻の最後の方ですでにあって、ほらサイダースギターのやよいとバニーズギターのミヤがプライベートで待ち合わせしてたりしましたが、こういうのが一層クローズアップされるようになったのが嬉しかったかな、なんて思うわけです。
第2巻では都合により書き下ろしが充実しているのだそうですが、だとしたらアルバムレビューであるとかシングルヒストリーとかもその都合とやらでできたものなんでしょうか。これらレビューは、音楽雑誌によくあるようなクロスレビューやアルバムレビューの体裁をとっていて、サイダースが実在したらこんな風なんじゃないかという、実にありそうな雰囲気でもって構成されています。秀逸なのはそのコメントがどれもこれも微妙というところで、この微妙さというのが『サイダースファンクラブ』という漫画の面白さの根本であると再確認させてくれる、非常に粋な小ネタとして機能しています。
頑張っても空回り、あっけらかんとして危機感はあるけど努力は嫌い、才能もあるんだかないんだかわからないという基本的に微妙なサイダースですが、けれど彼らを最後にああいうかたちでステージに上げたというところに、作者のサイダースに対する思い入れみたいなのが感じられたりして、ちょっと意外といえば意外、でもなんだか読んでいるこちらも嬉しくなってしまう、そんな大団円のラストだったと思います。そういえば、タイトルは『サイダースファンクラブ』だというのに、ファンクラブはついに出てこなかったような気がします。こういうところの微妙さというのも、この漫画の味で、そしてラスト、最後の最後の微妙さ、これも実にサイダースらしかった。王道の大団円を見せてしまったことに対するテレみたいなのが感じられるといったらあんまりにうがち過ぎかも知れませんね。
- 小坂俊史『サイダースファンクラブ』第1巻 (バンブー・コミックス) 東京:竹書房,2005年。
- 小坂俊史『サイダースファンクラブ』第2巻 (バンブー・コミックス) 東京:竹書房,2007年。
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