『街角花だより』を買いにいったその日、ちょうど隣に並んでいたこの漫画、表紙が妙に気になりまして、白衣を着たこぢんまりとした雰囲気の女の子もとい女性が薬を手に人差し指たててる絵なんですが、結構絵の雰囲気は嫌いじゃない、けれどこれという訴求をしなかったんですね。さあ、ここでシンキングタイムですよ。買うか買わないか。買ってもいい。でも買いたいという気持ちが沸き起こってこない。さあ、どうする? 結局買ったんですが、この購入にいたった理由というのは、これが『コミックハイ!』掲載作であったということ。えーっ、『コミハイ』って学校縛りじゃなかったんだ! というわけで、学校カテゴリからはずれるこの漫画はどういった感じかなと思ってちょっと欲しくなった。我ながらわけわからない理由です。
読んでみて、おおお、なんかごちゃごちゃしてよくわかんないな。とりあえず調剤薬局に勤務する薬剤師が主人公の漫画であるということは理解されたのですが、ええとだから薬剤師というプロの職場を舞台とする漫画だと諒解したっていうわけなんですが、けどそれがどうもうまく機能していない感じがします。なんというか、薬剤師云々という前に、一応あんた客商売なんだからさ、そういうスタンスってどうかと思うよ。そんな感じの主人公というのは私にはちょっときつい。いや、私はお客様は神様だなんてちっとも思っていないんですけどね、でもこの漫画のヒロイン、りかちゃんの態度はいただけませんよ。プロ論うんぬん以前に仕事であるなら、最低限のモラルは持つべきだと思うんですが、それがどうにもあかん感じで、自分の職場にこういうのがいたらたまらんだろうなあと思います。同僚どころか友人でも御免だわ。
ところがこういうケースは、後で好転する可能性が高いんです。第一印象が悪いと後で見直される機会があった時に高感度上昇が強く感じられる法則ってやつだと思うのですが、まあ見直しがなければ一緒なんですが……。でも、この漫画に関してはその機会がありまして、それは第1巻最後の話「おりがみ」。この話はよかったかもなあ。こうした仕事漫画を読むときは、その仕事にまつわる特異な事情がからめばなおさら、けれどからまなくっても、その職場職場におけるちょっとした日常のエピソードみたいなのが見えたら、それがなにより嬉しく感じさせてくれるところであると思うんです。薬剤師漫画だからといって、私は別に薬のどうこういう知識が欲しいわけじゃない。そんなのはしょせん彩りなんだと思う。そうじゃなくて、この漫画なら薬剤師という仕事に従事する日々に生まれる感情の動き、おそらくは一般の職業、店舗とは異なる客層を前にして発する気持ち、それを感じたい。そして、そうしたものが一番よく、自然に出ていたのは「おりがみ」だったと思うのです。
おそらくは主人公及び同僚藤沢の駄目さというのは、話を動かすために、あるいは後の成長を演出するためにあえて作られた駄目さなんでしょうが、せめてこれが今一歩及ばないとかであれば……。だって、第1巻時点ではこの二人は、仕事をする人間として求められる最低限をわきまえていないと思うんです。いや、私も知ってますよ。世の中にはいろいろいて、こないだ職場で経験したんですが、事務所に入ってきた出入りの業者に、どうされましたって伺ったら、あの人います? って、どの人ですかって聞き直しましたよ。というか、それ以前にお前が誰やねん。世の中には本当にすごいのがいるんです。ですが、そんな常識のレベルで駄目というのはどうでしょう。
ちょっと取り乱しました。りかちゃんと藤沢さんというのは、私の仕事に従事する人間としての常識のラインを割ったわけです。あるいは、駄目さを表現するのに、人に愛される駄目さではなくて、こういう駄目さが選択されたというべきか。すまん、二人とも好きにはなれん。けど — 、再読ではそんなにいやでもなかった。だから2巻ではもっと好きになれると思います。
- 新井葉月『薬屋りかちゃん』第1巻 (アクションコミックス) 東京:双葉社,2007年。
- 以下続刊
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