2007年3月26日月曜日

やっぱり心の旅だよ

 いったいなにで書いたものかわからなくなったときには、Amazon.co.jpのおすすめを見て回るに限ります。自分のこれまで購入した本、評価した本のデータを元に生成されるお薦め本、有り体にいえばこの商品を買った人はこんな商品も買っていますでしかなくて、こりゃちょっとどうだろうというようなラインナップも多いのですが、けどこと本ですからね、やっぱり好みというのは似てきます。お薦めのなかにはそれは持ってるというのも結構あって、だからこのシステムというのは結構有効なんじゃないかなと思っています。さて、そんなお薦め一覧を眺めていて、目に留まったのが福満しげゆきの『やっぱり心の旅だよ』。この漫画、書店で出会ったときになんだか妙に訴えるところがあって、一度は流したのですが、結局は買ってしまったというそんな本です。この本がお薦めにあがってくるのを見て、なかなか鋭いところを突きやがるなあ、じゃあちょいとこれで書いてみようかと思ったのでした。

最初に断っておきますと、なんだか微妙な漫画なんですよ。微妙だろうなというのは買う前から察していたことなので、読んで失望したとかそういうことはありません。だって、帯にこれが福満しげゆきの失敗エロまんが道。なんて書いてある。失敗ってなんなんだろう。妙に興味を引いたのは、こういうところにもあるのかも知れません。漫画の帯に踊る、泣けるとか誰々推薦とか傑作だとか金字塔だとかTVアニメ化とか、いかにも売らんがための景気のいい文句に辟易するところも多い昨今、力の抜けた煽りが妙に新鮮だったのかも知れませんね。それに、実際そんな感じがするんだもの。エロといえばエロなのでしょう。表紙にもそうした絵が配置されていて、けどそれ見るかぎりあんまりエロという感じがしない。多分、エロを目指しつつもどこか外した漫画なんだろうなあと思って買ったら案の定でした。だからむしろ微妙で満足しているといったらいいのか、そんな微妙な感想です。

掲載されている最初二本はエロではありません。むしろSF? なんかタイムパラドックスものだったり宇宙人? が襲来してきたり。王道といえば王道、けどそれなのにものすごく微妙。大仰な話になってもおかしくないテーマなのに、なんかすごく淡々と進行して、危機感みたいのは妙に薄いし、どんな異常事態があっても結局強いのは日常の暮らしというリアリティなんだとでもいおうか、とにかく日常感、それも小市民的日常感が強烈すぎるのです。

後半のエロに関してもおおむねそんな感じで、エロ漫画っていうのはそもそもが都合よくできているものなんだけど、それにしても都合よすぎというか、エロに対して変に葛藤している話があったかと思えば、おかしくなるほど葛藤の感じられないあっけらかんとしたのもあって、むしろほのぼのというか、そのほのぼの感に屈折が感じられるというか、すごく微妙な読後感の得られる漫画に仕上がっています。

それで最後に表題作。日常に感じる鬱屈とそれを跳ね返そうという(それも漫画の中で跳ね返そうという)衝動が入り交じっているような、そんな短編で、後味はあんまり良くない。けど落ちがあのようなかたちで決着したから、その後味の悪さも薄まって、やっぱりこの人らしい作風の感じられる一本だと思います。

あんまりヒットするようなタイプの漫画家ではないと思うけれども、この人じゃないと出せないみたいな味があると思うのです。だから、愛されるというか支持する人もいるのだろうなと感じて、私はといえばまた微妙なのですが、けど結構嫌いじゃない感じだと思っています。

あ、そうそう。この漫画がお薦めに入った理由ですが、『街角花だより』だったみたいですよ。意外な繋がりと思ったのですが、案外このあたりのマイナー色あふれる漫画に引かれる人というのは同傾向にあるのかも知れません。

引用

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