私があさりよしとおの漫画に出会ったのは中学に通っていたころで、なんか独特の表現、ひねてて皮肉も利いてて、そうしたのが独特の丸み、柔らかさを帯びた絵で展開されて、なんというんでしょうね、シュール? 私にとっては好きな作家なのですが、一般層への浸透というといくつも疑問符がつくくらいにマイナーで、漫画をかなり読む人ならば知ってる可能性は高いとはいえ、普通の漫画読みなら知らないかも知れないくらい。けど、面白いんだけどなあ。
あさりよしとおの面白みというのは、シニカルさ辛辣さもそうなのですが、少々ブラックに寄り気味(寄りすぎ?)のパロディであるとかジョークでしょうか。氏の科学に対する造詣、愛、思い入れが光とすれば、それらと引きあう影がこうしたかたちをとるのでしょう。けどさ、その光も影も両面が面白い。まあ、読む人は選ぶんですけどさ……。というわけで、『少女探偵金田はじめの事件簿』は明らかにあさりの影の部分が反映された漫画であろうと思います。
基本は探偵もののパロディで、ヒロインが金田はじめ、つまり金田一で、これは横溝正史を引きながら、同時に『金田一少年の事件簿』も視野に入れているのですが、多分これは後者の方が強いんでしょうね。でもって、強引な推理やらで事件を解決するのは後者に同じでありまして、しかしそれが推理の体をなしていないというのは特筆すべき特徴なんではないかと思います。というか、端から推理ものを真面目にやるつもりなんてないんじゃないかというのがありあり出ていて、推理ものにかこつけてブラックなギャグをやりたいだけなんだこの人は。けどそういうのが面白いんだもの、しかたがないですね。
金田一以外にも探偵は出てきて、それは例えば江戸川乱歩の小林少年、そしてアガサ・クリスティのエルキュール・ポワロ。しかしどちらも最悪だ……。特にポワロ……。
あさりよしとおの漫画では、自分の異常さ加減に気付いていないとんでもないのが無茶をやって、それに振り回される常識人という形式が王道なのですが、この漫画では当初常識人代表が警部であった。しかし気付けば金田も常識人組に組み入れられて、この何気ない移行はちょっと面白いかも知れません。けど、全体を見渡す限り、あさりよしとおの真骨頂は発揮されずに終わったのかも知れないなあとも思います。後書きにもちょっとあったけど、得意ねたを出せなかったのが大きいのかなあ。ともあれ、そのへんはちょっと残念なことであろうと思います。
- あさりよしとお『少女探偵金田はじめの事件簿』(ジェッツコミックス) 東京:白泉社.2006年。
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