2014年4月6日日曜日

いちごの入ったソーダ水

 アニメ『未確認で進行形』、皆さんはご覧になられましたか? 私は見ました! 超面白かったです! さて、『未確認で進行形』の作者荒井チェリーさんの新刊『いちごの入ったソーダ水』、この第1巻が先日発売されましてですね、読んでみたらすごく面白い。腹がよじれるなんて慣用句がありますけれど、そうかこの感触がそれなのかと実感してしまうほどに笑えて、本当にこの人の漫画はよいな、そう思わせられる次第なのであります。『いちごの入ったソーダ水』、舞台は迷迭香女学院。かつて葉子様もお通いあそばしていたという名門の女学なのですが、高等部から迷迭香に通うことになった花泉月、月と書いてるなと読ませる、お嬢様らしからぬお嬢さんのお話。かつては周囲を震えあがらせたやんちゃ娘がお嬢様たちの群に放り込まれて、描かれるのはそれからの彼女の新生活。そうしたらこいつがべらぼうに面白いのです。

るながですよ、迷迭香に入るとなって、舎弟からいわれるわけですよ。女子校っつったら百合じゃないっスかー!!。いやいやいやいや、もちろんそんなことはないわけなんだけれども、るなにとっては女子校の実態なんてわからない。まさかそんなことないだろう、そうは思うが入ってみても色々心配で — 、そんなだった彼女が寮で同室の御代田こひめと仲を深めていく、そういう物語であるのです。

乱暴でがさつ、あからさまに毛色の違うるなと、お嬢様中のお嬢様、世間知らずで人見知り、自分の世話もままならない、そんなこひめが、なんだってこんなにも自然に引き合っていくのだろう。そう思わせるのは、キャラクター造形のうまさ、そして描くその筆致の確かさのためなのでしょう。るなは姉御肌なんですね。やんちゃでぞんざいなんだけど、困ってるやつがいたら放っておけない。慕われたら無下にできない。なんだよ、いいやつじゃん! それがるなという子です。日常生活を送るのに、もたもたと慣れない様子のこひめのこと放っておけるわけなんてなくて、自分がやる方がはやいからといいながら、こまごま世話を焼いてあげている。その様子は迷迭香の子らから見ても過保護なようで、けどそんなるな、こひめふたりの様子は、見ていて本当に自然で、ほのぼのとして、暖かいのですね。

面白くないのは舎弟ですよ。あ、舎弟の女の方。さっきの百合発言じゃない方。小山田杏奈。私の姉御が迷迭香に、女学院に染められていくー! 私のかっこよかった、憧れの姉御がどんどん変わっていく、そのことに危機感覚えて、とにもかくにも面白くない。あの女とどういう関係!? もう、嫉妬、嫉妬、ジェラシーですよ。って、百合なんてあるかー、そういってる君のその感情がどうもそれっぽいんだけど!? いやもう、荒ぶる杏奈、その鬼気迫る様子は最高に面白い。笑いとまらない。百合男子湊咲太郎の興奮、ハッスルも面白いのだけど、すまねえ、杏奈のそれには及ばねえな。もう、杏奈は最高。あのどんどん深みにハマっていくプロセスは、これがギャグ寄りコメディ寄りの四コマじゃなかったら、一種のホラーといってもいいくらいだ! ほんと、杏奈は最高です。

この漫画は、ギャグ寄り、コメディ寄りの四コマなのです。だから、出てくる人、出てくる人、みんな一癖二癖あって、そのやりとりからが面白いのです。けれど、一歩間違えるとギスギスした雰囲気にもなりかねないやりとり、ぽつぽつ散見されるのだけれど、それが不快さ感じさせない、それどころか暖かくさえ感じるものになっているのは、この漫画の人たちが、すっきりとして気持ちのいい、いい人たちだって伝わるからなんだと思います。険のあるいい方する彼女もあの子も、腹の底までは悪くない。素直でなかったり、好きが好きすぎたりするだけだってちゃんとわかる。だから、そんな彼女らとのやりとりも微笑ましく、愛らしい。ええ、すごくチャーミング、皆チャーミングなのがこの漫画の美点のひとつです。

そして美点はまだあって、御代田こひめのいう、私はるなの事好き。一切のまじり気なく、素直に向けられる好意。この台詞に触れた時、このコマに触れた時、胸がぐっとつまって、涙が出た。こうした思いを誰かに向けること、誰かから向けられること、そしてその気持ちを素直に言葉にすること、あったろうか。そのあまりにも当たり前すぎる、けどその単純なことが自分にはできない。そう思ったのかも知れません。御代田こひめの、好きという言葉に私は心底打ち砕かれたようになって、ええ、こうした気持ちの素直さの伝わる、このことは疑いもない美点であるとうけがいます。

引用

  • 荒井チェリー『いちごの入ったソーダ水』第1巻 (東京:芳文社,2014年),8頁。
  • 同前,93頁。

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