2012年4月14日土曜日

半透明勤務薄井さん

 幽霊ものは、今や四コマ漫画において無視することのできないジャンルとなっていて、例えば『レーカン!』、例えば『トンネルの華子さん』、あるいは『天国のススメ!』、『どろんきゅー』、ゲストや新人投稿作にいたるまで、それこそ続々出てくるわけですが、実際、霊というものは一種のロマンなのであるのでしょう。夢が膨らむ、お話も膨らむ。出てくる霊も様々で、冗談じゃなく怖く描かれてるのもありますが、四コマに出てくるのといえば基本いい人ばかりで、むしろほのぼの、ハートフルといったところ。そして、ほのぼの幽霊の筆頭といえば『半透明勤務薄井さん』、彼女なんじゃないかなあ。ええ、薄井さん、ものすごくいい人! ならぬ、いい霊! なのです。

麻生紅が就職した会社には、半透明の人がいた! 薄井ましろ、この人が話題の幽霊であります。職場についた地縛霊。にこにこいそいそと働いている、実に可愛い人なのであります。新人で右も左もわからない麻生さんに仕事を教えたり、あるいは時に励ましたりと、それはそれは優しい人で、先輩社員、瑠璃、琥珀の姉弟にもお茶をいれたり、パフェを作ってくれたりと、ほんと、こういう人が幽霊だったら、ぜひ近くにいてほしい! そう思うこと請け合いなのですね。

優しい幽霊。生前は病弱で、人に迷惑をかけることが多かった。ところが死んで、弱い体を失って、おかげで元気に働けるようになったものだから、今度こそ人の役にたちたい、その一心でこの世に、会社にとどまっているんじゃないか? なんていう、考えてみればちょっと切ない話であります。実際、薄井さんについて語られる話の中には、切なかったり、ちょっとほろ苦い、そんな味わい残すものもあったり、楽しいばかりでない漫画なのかも知れませんが、でもね、そんな薄井さんを麻生さんはじめ、会社にいる皆が暖かく見守っている、気持ちをそそいでいてくれている。優しいのは薄井さんだけでなく、皆が優しい、暖かいのですね。

だからなんでしょう。読んでいて、とても穏かな、安らいだ気持ちになれるんですよ。おそらくは、こうした関係は理想そのものといっていい、それこそユートピアだ、非現実的だ、そうしたこともいえるのかも知れないけれど、なにが現実だ、そんな風にも感じるんですね。こうあってくれるといい、そんな思いがここにある。描かれたものに過ぎないとしても、こうして触れて、冷えた心を温めて、ああ、自分もこのようにありたい! そう思えれば、それはなんと素敵なことだろう。薄井さんたちの優しさが伝わって、伝染する。本当、素敵な漫画であると思います。

  • 来瀬ナオ『半透明勤務薄井さん』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2012年。
  • 以下続刊

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