2007年6月21日木曜日

Hôtel Normandy

 先日、ちょっといってましたように、母が旅立ちまして、目的地はフランス。ああ、こんなにうらやましい話はないよっていうんです。いいなあ、フランス。だって私は、第一外国語はフランス語と公言しているような人間で、つまりはかなりの親仏派。イギリスも好きだしイタリアも好きだけど、こと言語に関してはフランスが一番性に合っている — 、まあ慣れてるってだけかも知れませんが、学習における意気込み、関わってきた時間の量、そして使用頻度、どれをとってもフランス語が筆頭であることは間違いありません。けど、なにが悲しいといっても、私はフランスにいったことないんですよね。フランスどころかフランス語圏さえない。だから、なおさらうらやましくってならんのです。あああ、いいなあフランス。

母のフランス旅行、立ち寄る先はパリと、そしてノルマンディです。ノルマンディというと、史上最大の作戦で有名な土地でありますが、まあ一口にいうにはあまりに広い土地です。フランスの北部、蕎麦粉のクレープであるガレットと林檎の酒、シードルやカルヴァドスが名物で、ケルトの文化が色濃く残る地 — 、と思っていたら、おいおいそりゃブルターニュだよ。全然違うって。正直ショックでした。フランス語を習っていた時には、ただ言葉を学ぶだけでなく、土地や風物、文化もあわせて学ぶものですが、そんときに得た知識というのは、悲しいほどに揮発してしまっているのですね。恐ろしいことです。今やノルマンディというと、第二次大戦で英米仏連合軍が上陸した土地であるとか海に囲まれて堂々とたつ修道院モン・サン=ミシェルくらいしか思い出せなくて、そしてもうひとつ、パトリシア・カースの『ホテル・ノルマンディ』。この歌は、私がフランス語を本腰いれて学びはじめた時期に耳にした曲。あまりに魅力的であったので、CDを買ってしまった。それくらいに印象深く、好きな歌だったんです。

はじめて耳にしたのは、NHKのラジオフランス語講座。杉山利恵子先生の入門編で紹介されたのを聞いたのですが、あの頃、ラジオやテレビからもたらされるフランスのいろいろはすごくきらきらとしていたっけなあ。言葉にしても、風物にしても、発見の連続というか、知識欲を掻き立てる、そういう魅力にあふれていまして、だから出会う音楽にしても耳に新しく、新鮮であったのでした。

パトリシア・カースの歌う『ホテル・ノルマンディ』は、フランスの歌といえば(狭い意味での)シャンソンとしか思っていなかった私にすごく強い印象を残して、それは陰鬱な響き、シリアスな歌声、圧倒的な存在感。歌の持つハードでソリッドな空気のためだったのだろうと思います。少なくともこの曲は、私にとってのフランスの印象を塗り替えました。フランスといえば、エスプリとかコケットとか、そういうのを思いがちだった私に、より広いフランス曲の地平を見せてくれた。もちろんこの歌一曲だけがそれだけの役割を担ったとはいえないのですが、けれどそれほどに印象に残っている歌であるのは確かなのです。

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