2006年9月25日月曜日

英雄 / HERO

 私はこの映画をテレビで見たのですが、はじめてみたその時、すごい映画が中国から出てきたものだと、本当、あぜんとするかの思いでした。中国の映画というと、往年の香港カンフームービーみたいな頭があって、基本的に師匠の敵、親の敵を討つというのがパターン。よくいえばシンプルなその形式の中で、主人公の体を張ったアクションというのが光る。こうした印象はその後も続いて、映像がきれいになって、映画全体に感じられた泥臭さというのが抜けたとしても、中国(香港?)アクションムービーといえばジャッキー・チェンの初期作品の延長にある作品であるという感じがしたんですね。

ところが『英雄 / HERO』は全然違ったのです。

謎めいた人物、無名が登場して話が動き出すその見せかたがいちいちかっこいいというのはどうしたものでしょう。盲目の老人の弾く琴の調べに合わせ繰り広げられる戦いがあれば、書の世界での心理劇などもあって、それぞれのモチーフとなる芸術なりの思想が前面に押し出されて、桶にたがをはめるように映画を引き締めていく。シーンは二転三転、前提となる条件を違えていって、そのつど私は翻弄されながらも、圧倒的な映像の美と説得力にううんとうならされます。そして無名と王の対話に戻れば、王の突きつける鋭い指摘が再び物語を解体し、組み直させるのです。

黒沢の『羅生門』を思い出させましたよ。起こった事件について語られる証言、それがことごとく食い違ってくるという物語。ですが、『英雄 / HERO』は『羅生門』ぽく感じはしたものの、羅生門的ではないのですね。語られる物語が二転三転するのには理由がある。その理由がなんなのかが語られたときに、物語は一気に透明度を増し、加速していって、そして鮮烈なラストを迎えるのですが、この一連の見せかたのセンスのよさよ。

これからの中国は侮れないと、本気で思いました。真っ正面から取り組んで、見事に映像の美の世界を作り上げることに成功している。ただのアクション映画ではないと、久しぶりにすごい映画を見たと、本当にそんな気持ちにさせられた映画でありました。

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