2008年6月24日火曜日

ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド

  先を楽しみにしている漫画というものは、常時ひとつやふたつくらいはあるものですが、『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』は疑いなくそうしたもののひとつです。新刊が出れば一も二もなく買って読む。なにをおいても読む。いうならば最優先タイトルですが、それは当然それだけの理由があるのです。一言でいうと面白い。ヴァンパイアの姫の覇権争いを描いた漫画が、独特のリアルさをもって迫ってくる。実に読ませるのですよ。さて昨日、最新刊である5巻が書店に並んでいました。もちろん買いました。もちろん読みました。そして、やっぱり面白いなあという思いとともに読み終えたのでありました。

第5巻は第4巻から引き続いての追跡劇、その完結巻にあたります。ヴァンパイアの姫君ミナを巡る権力争いに巻き込まれるかたちで命を狙われることとなった主人公アキラが、放たれた刺客に対しいかに戦うかというクライマックスが見どころと思われたのですが、ええ、確かに見どころであるのですが、なぜか私は戦いの行方に関してはあまりのめり込むことができずにいました。第4巻から間が空いたためでしょうかね。テンションが下がってしまったんでしょうかね。これほどに淡々と読めることに自身驚いて、それこそ5巻は穏やかに読み終えられるかなと思ったのです。

見込み違いでした。しっかり見どころ、山場を作っていますね。感情に訴える山場。主人公の少年を、またヒロインであるミナ姫を、応援したくなってしまうような山場。彼女がなそうとしていることの一端が描かれて、そしてアキラは負けるわけにはいかないということも。アキラの戦いは、姫さまをだけでなく、多くの人のささやかな仕合わせをも守るものであったのだと、あの十ページ足らずで説明しきってしまいました。アキラを奮起させたように、読んでいるものも引き込み、肩入れさせてしまう、雄弁なページでした。そしてその雄弁、物語の力強さは、これまでに積み上げられたものがあってなのでしょう。ヴァンパイアたちの人とは違う生き方、しかしそれでも人としての仕合わせを求める人たちがいるということが語られてきた。簡単に壊されてしまう、しまった仕合わせがあること、しかし苦境にあっても仕合わせに手を伸ばすことは、手にすることは可能であるのだと、そういうことが描かれてきたように思います。だから、この十ページは豊かだった。どん、と大きな感情を手渡されるような、そんな実感にあふれたのだと思います。

この漫画のよいところは、よく感情を揺さぶってくれるところ、そして問題の解決に際しスマートな手法が用意されるというところだと思います。確かにご都合主義といえばそうなのかも知れません。事前に計画に穴を開けておけばいんですから。ですが、その穴に気付かせない。そしてあっと思わせるタイミングで、解決策を見せてくれる。それが鮮やかだから、ああやってくれたなと嬉しくなるんです。第5巻においてもそうした見せ方は健在で、ちょっとおとなしめに感じたのは感情方面の描写が強かったからでしょうか、でもいいアイデアだなあと思わせるギミック、素晴らしかったです。

続きを知りたくて第5巻だけを読んだわけですが、おそらく第4巻から一続きに読めば面白さは際立つことでしょう。だから余裕があれば既刊を読みなす機会を持ちたい。そしてその読み直しは、今後新刊の出るたびになされるのではないかと予想されて、というのもそれくらいに引き込んでくれるから。本当に、いい漫画だと思います。

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