2004年12月18日土曜日

十三妹

 大阪梅田の紀伊国屋書店を散歩していたときのことです。平に積まれた文庫の前で、おお、と思わず足をとめて、それがこの『十三妹』。いやいや、表紙に気を取られたのではありませんぞ。私が気にしたのは本のタイトル、『十三妹』でありました。

『十三妹』というのはなにかというと、中国は清の時代に書かれた物語『児女英雄伝』にて主役を張る美女で英雄の何玉鳳が通り名。十三妹と書いてシーサンメイと読みます。血のつながっていない妹が十三人でてくるといったお話ではないので、くれぐれもお間違えなきようにお願いしますよ。

私が十三妹の名をはじめて知ったのは、漫画『拳児』でだったりします。主人公拳児が香港であった美少女閻勇花のあだ名が十三妹であったのです。

『拳児』では、十三妹というのは清代の武侠小説にでてくる美少女の剣術使いの名前中国人なら誰でもしってるくらい有名であると説明されています。なんといいますか、美少女の剣術使いというところがポイント高いではありませんか。いや、剣術使いというところがですよ。凛々しく強い女性が好きという私には、まさに十三妹は理想的ヒロインであるかのように思われたのです。

そんなわけで、私は一度この十三妹の物語を読んでみたいと思っていたのでした。だから、書店で『十三妹』という本を見たとき、探し求めていた宝物を見付けたかのような気持ちになったのでした。

けれど、この『十三妹』は十三妹がヒロインではあるけれど、『児女英雄伝』ではなかったんですね。『児女英雄伝』や『三侠五義』、『儒林外史』といった中国古典をもとにして新たに紡ぎ出された物語が『十三妹』であり、日本で生まれた十三妹異聞、サイドストーリーであるわけです。

じゃあ、その十三妹異聞を読んでどうだったのかというと、すごく面白かった。十三妹はなにより格好いいし、ライバルの白玉堂もなかなかのもの。大立ち回りも爽快で、ときにはちょっとエロチックな描写もある。実に楽しく読めました。

驚いたのは、これが朝日新聞連載であったということで、しかも出版は1966年、私が生まれるずっと前ですよ。しかしその軽快な筆致は古さをまったく感じさせず、活き活きとした描写で思わず釣り込まれてしまいます。小説の性質としては娯楽という色が強いですが、だからこその読みやすさ。なおさら十三妹の魅力にまいってしまいましたね。そのせいか、頼りなくてだらしのない夫、安公子には暖かい目を注ぐことができませんでした。話がこの人メインになると、ええい、安公子はいい、十三妹を映せ、十三妹の活躍ぶりを、とか思ってしまうんですね。いやはや、まったく駄目な読み方をしておりますな。

もとになった物語は、すべて平凡社の『中国古典文学大系』で読むことができますが、これはちょっとした大著なので気楽に買うには高いですね。ちなみに、『児女英雄伝』は47巻、『三侠五義』は48巻、『儒林外史』は43巻にそれぞれ収録されています。

どうしようかな、買おうかな、どうしようかな。ちょっと迷ってしまうのあります。

そういえば、松本零士が『児女英雄伝』をSFにしていたっけ。こっちもどうしたものかな。

  • 武田泰淳『十三妹』(中公文庫) 東京:中央公論新社,2002年。

引用

0 件のコメント: