2004年12月20日月曜日

Miracles: The Holiday Album

 クリスマス特集第一弾は、メロウなソプラノサックスの音色が心地よい、ケニー・Gのクリスマスアルバム『ミラクルズ』を紹介しましょう。クリスマスアルバムというだけのことはあって、聞いたことのあるメロディが次から次へと続いて、しかしそれがすごくムーディ。ゆったりと歌うサクソフォンとはこんなにも暖かいものかと、傍らに立ち親しげに語りかけてくる善き隣人の優しい笑顔、友愛の情を思い起こさせるような清浄さに満ちています。

昔を思い出すようでもあります。ずっとずっと昔、本当は自分の身に起こったことではないかも知れない昔、自分はこうした穏やかな金色の時間に包まれて、夢見心地でいた。そんな、心に奥底から懐かしさがわき出てくるような、そして静かにして仕合せな時間を慈しむ気持ちに浸ることのできる、贅沢なアルバムです。

懐かしさというのは、私が昔サクソフォンを吹いていたということにも関わるのかも知れません。なんかあの頃は闇雲に一心不乱で、今思い返すと、こうしたアルバムを音楽として楽しむ余裕はなかったような気がするんですね。なんといったらいいのかな、研究対象というか、一種のお手本というか、そんな感じだったんですね。

コピーするんですよ。耳で聞いてなるたけその通りになるように真似をして、それで技術やフレージングを盗むんです。このアルバムは、すべての曲がスロウで、しかもよく知られた曲ばかりなので、コピーしやすかった。けれど、どんなにがんばってもこんな風にはならなかったですね。そりゃそうだ、一介の学生風情がどんなにがんばろうと、ケニー・Gになんてなれるものか。けれど、その時の自分はサクソフォンに文字通り心血を注いでいたから、無理であろうと無茶であろうと、そのまま我を張って進む以外になかったんです。

そこですよ。その我を張って進むという、その心が間違っていたと、今になれば思えます。もっと音楽を楽しんで、音楽に近くあろうとせねばならなかったのです。それを、ただただ技術の習得を目標とするみたいにして、けれどそれでは歌の心には、音楽の本当には近づけないのですよ。

いま、随分と経ってしまってから、当時教科書みたいに聴いていたアルバムを聴くと、その時気付いていていなかった豊かさに改めて驚かされます。自分はなにを聴いていたんだろうと思います。もったいないことをしたなと思います。

サクソフォンは、専攻を変わって、レッスンや試験がなくなって、なんだか自由な気持ちなれて、その時が一番よかったように思います。多分、大学四回生の夏、日本テレビ系の黄色いTシャツのイベントで、バッハの無伴奏チェロ組曲をやったとき。あれが私の、サクソフォンにおける最高だったと思います。多分、あの時ばかりは、歌う気持ちを抱き留めることができていた。そのように思います。

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