音楽、とりわけクラシックに関していろいろ調べようとするときは、もちろん事典に頼るのが最も一般的なアプローチでありますね。今、日本語で参照できる音楽事典として、最も大部であるのは『ニューグローヴ世界音楽大事典』でしょう。本巻二十一冊、別巻二冊で、価格は六十万円近い! そんなの個人で買えるわけないじゃん、という場合には平凡社の『音楽大事典』という選択肢もあるんですが、なんだか品切れしてるみたいですね(ちなみに、一冊七千円しました)。ううむ、知らないうちに時代は推移しているのだと実感させられます。
さて、こうした事典は個人で持つにはちょっと大きすぎる嫌いがあります。なにしろ高いし、場所もとるし、ちょっと知りたいと思う以上に詳述されていて使い回しもちょっと悪い。個人で使うには、個人に適した大きさというのがあるはずで、そうした要求を満足させる事典はないものかと探してみれば、ウルリヒ・ミヒェルスの『図解音楽事典』が実によい感触。これは実にみっけもんの事典でした。
私はこの事典は個人向け音楽事典の極め付けと思っています。大きさも手ごろで、内容もしっかりして、実に要点を押さえてまとまっています。扱っている範囲にしても結構広く、音楽諸学、楽器、理論、形式、そして歴史。なにしろジャズやらロックまでカバーしてますからね。実際この一冊があれば、大抵のことには用が足ります。たった677ページに、よくもこれだけ詰め込めたものだと嘆息しますよ。
おっと、今詰め込んだみたいにいってしまいましたが、これはちょっと語弊ありですね。というのも、事典を開いた左ページはきれいな色刷りの図版なんですよ。わかりやすい図解、豊富な譜例、地図もあればもちろんイラストもありますよ。だから実質辞書の半分は図解なんです。それであって、このボリューム、内容の豊かさ。はじめて出会ったとき、うわあ宝の山だと思いました。
はじめてこの本の存在を知ったとき、私はすでに音大生であったのですが、専門的事柄にも充分対処してくれるこの事典には、本当に助けられました。意外とこういう手頃なものというのはないんですよ。小さくてコンパクトなら内容もコンパクトというのが大抵で、ひどいものだと音楽を曲げて伝えているとしか思えないものまであって、ハンディな音楽事典は数多けれど、大半は用に足りません。だからちょっと突っ込んで知りたいと思ったときには、大部の事典に頼るしかないというのが現状だったんですね。そこを、この事典は小柄ながら実にスパルタンで、世界的に大ヒットしたというのもうなづけます。
けれど、スパルタンというのは言い得て妙ですね。スパルタンには質実剛健だけでなく厳格なという意味合いもあります。ええ、ちょっと内容は難し目です。用語はまさに容赦ない専門用語 — けどまあそれはこの事典で調べればよろしい。こんな風に、事典で調べ、わからないものをまた調べすることで、自然音楽に対する造形も深まるという具合なので、学習者の方はぜひ手にして、この厳しい先生に真っ向から向き合っていただきたいと思うのです。
あ、そうそう、それともう一点。この本はもとがドイツのものだから、用語とかは実にドイツ的です。だから悪いとはいいませんが、知識が偏るのもいけないので、この他にももう一冊二冊くらい、事典を持っておいた方がいいですよ。
- ミヒェルス,ウルリヒ『カラー 図解音楽事典』角倉一朗監修 東京:白水社,1989年。
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