8月12日、漫画『大正野球娘。』の4巻が発売されまして、もちろん買ってきたのです。書店にて手にとった時の印象、忘れられません。分厚い! もしやこれで打ち切りではあるまいな、嫌な想像してしまうのは、なにかと思いどおりにいかない毎日にネガティブを叩き込まれてしまっているためでありましょう。しかし、幸い、連載は今も続いているそうで、安心いたしました。そして読んでみて驚きですよ。なんと野球がはじまっていました。これまではなんだかのろのろだらだらと、横道逸れることを目的としているかのような風でさえあった、この漫画がですよ、なんと野球やってる。練習試合。しかも大健闘だ! ええ、これは俄然面白くなってきましたよ。
とはいうけれど、これまでの日常、じゃねえなあ、寄り道といった方がよりらしいですね、それも面白かったから、ストーリーが進んでしまうと、ああ終わりに向かっている! と残念に思ったりもするのですけれど。いえね、軍資金を調達する話とか、そういうのは原作どおりでもあり、またアニメではこのあたり割愛されてしまったがゆえに、道具などの調達、どうしたんじゃ、お下がりとはいえお直しにも金はかかるだろう、お小遣い使ったのか? そんな疑問も出ないでもなかった。ええ、もともとはちゃんとそのあたりも考えられていた、というか、こういう野球にいたる前のやりとり、そちらに力がはいっているのが原作だったように思います。
で、漫画はそうした面もちゃんと拾いながら、寄り道やパロディ、悪ノリに力を入れているときました。だって、下級生ふたり、鏡子と胡蝶が見事に月映妹の手下としてできあがってしまっていて、諜報をする、手裏剣まで投げる。えらいことになってしまっていて、原作ではどうだっけ? と思ったら、申し訳ないんだけど、原作での下級生、ほとんど記憶にないんですよ。胡蝶とか、どうだっけかなあってくらいに覚えていなくて、読み直さないとと思っているくらいです。で、ここまでキャラクター改変して、もちろんこういうの気にいらないっていう人もあろうとは思いますけど、私に関しては不思議とこれもありだなって思えてくる。実に気にいっています。というか、漫画で好きなキャラクター、環と胡蝶だし。
そして漫画にも新聞部が登場です。記子さん、そして後輩の塚原須磨子、この子が素晴しい。カメラ持って偵察に出る。その姿、凛々しくそしてキュート。ってのはいいとして、記子さんはアニメからの輸入ですね。アニメからの影響は他にも見られて、雪さんのいう、わたしそんなに黒くないのよ
は、アニメ版ドラマCDからですね。でもさ、漫画の雪さん、充分黒いよな。というか、どう考えても真っ黒だよな、なんて思ってしまうのですが、漫画はそれをわかった上でやっていると思われて、こうした遊びが面白い。で、どうもあとがきを見れば、野球に突入したそのこと自体がアニメの影響をうけている? いや、さすがにそれは冗談だろうって思うのですが、はたして本当のところはどうなのか、それを冗談とはいいきれない、そんな雰囲気も感じてしまうというのですね。
さて、漫画版のテーマというの、だんだん鮮明になっているように感じます。以前からそうした傾向は感じていたのですが、漫画では、自分でそうすると決めてできることはすくないでしょう?
なにかと思いどおりにいかないからこそ、自分で決めたことのできるということ、自由をこの上なく大事なものとしている。そうした色があるのですね。あるいは、決められた自分像を壊し、自分のらしさというものを求めていこうとする。自分を知り、自分という枠を越えて、自分から自由になろう。彼女らの見せるそうした様子がすごくいじらしいと感じられて、なにせ普段が悪ノリ多めの漫画です、時に見えるシリアスな表情がぐっとくるんですね。原作もアニメも漫画も、意地で野球をやる、誇りのために野球をはじめて、苦しいながらも野球の楽しさを知って、そして自分をのびやかにしなやかに表現していく。そうした自己実現の物語であると思っているのですが、そうした色が一番強いのは漫画なのかも知れないな。そんな風に感じています。
- 神楽坂淳『大正野球娘。』小池定路イラスト (トクマ・ノベルズedge) 東京:徳間書店,2007年。
- 神楽坂淳『大正野球娘。 — 土と埃にまみれます』小池定路イラスト (トクマ・ノベルズedge) 東京:徳間書店,2008年。
- 神楽坂淳『帝都たこ焼き娘。 — 大正野球娘。』小池定路イラスト (トクマ・ノベルズedge) 東京:徳間書店,2009年。
- 神楽坂淳『大正野球娘。4』小池定路イラスト (トクマ・ノベルズedge) 東京:徳間書店,2010年。
- アニメージュ編集部編『大正野球娘。 — 野球乙女手帳』(アニメージュ文庫) 東京:徳間書店,2009年。
- アニメージュ編集部編『大正野球娘。 — 乙女画報』(ロマンアルバム) 東京:徳間書店,2009年。
コミックス
- 伊藤伸平『大正野球娘。』第1巻 神楽坂淳原作 (リュウコミックス) 東京:徳間書店,2009年。
- 伊藤伸平『大正野球娘。』第2巻 神楽坂淳原作 (リュウコミックス) 東京:徳間書店,2009年。
- 伊藤伸平『大正野球娘。』第3巻 神楽坂淳原作 (リュウコミックス) 東京:徳間書店,2009年。
- 伊藤伸平『大正野球娘。』第4巻 神楽坂淳原作 (リュウコミックス) 東京:徳間書店,2010年。
- 以下続刊
CD
Blu-ray Disc
DVD
PSP
Goods
引用
- 伊藤伸平『大正野球娘。』第4巻 神楽坂淳原作 (東京:徳間書店,2010年),159頁。
- 同前,192頁。
2 件のコメント:
以前、大正野球娘。の記事にコメントした者です。ようやく漫画の最新巻を読み終わったのでコメントさせて頂きます。
漫画版はアニメ版の影響の受け具合が絶妙でしたね。記子も上手く絡んでいましたし。
単なるコミカライズに留まらず、独自の面白さを突き進んでいるので目が話せません。
”自由をこの上なく大事なものとしている”
確かに社会の縛りと闘いながらも、彼女達は凄く自由奔放な感じがしますよね、ギャグもシリアスも。時折見せるシリアスな表情にぐっとくるのも同感です。
自由にやってるように見せて、いろいろなしがらみや、親の呪縛みたいなものにからめとられてるところがうまいなって思っています。
特に巴と静の、ふたごという対比をうまく利用して、呪縛から抜け出そうとしていう巴と、いまだとらわれている静みたいな、そういうのが今後どう展開していくのかなど、興味はつきません。実際、目が離せないって感じがするんですね。
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