『愛しの花凛』、これもまた夢であるなあ、そう思うのでした。仕事を終えて帰宅のバスで一緒になる彼女は、笛ケ丘遊園地のマスコットキャラクターを演じる河合花凛。花ケ崎豊は密かに彼女に憧れて、それはまるで美しい花を慕い愛でるがようであったというのですが、ある雨の夜、傘を持たない彼女に傘を差し出したことで、ふたりの距離は一気に縮まっていく。仲の深まっていく様は、えええ! そんなことあっていいんですか!? 驚いて、思わずうめいてしまうくらいなのですが、だからこそ夢であるなあ、そのようなことをいうのですね。
豊は自分からはじめの一歩を踏み出して、それからも優しく、紳士的であり続けている。それは美徳なんですよ。だから豊と花凛が親しくなっていくことについては、むしろ歓迎。豊の恋、いや花凛の恋というべきか? 成就して欲しいなあ。どうか万難排して、よい結末に向かって欲しいものだ。そう思っているのですね。だのにどうしてうめくのか。それは、ふたりの関係、それが主に花凛が主導するものであるからなのですよ。憧れていた彼女と知り合って、それからのイベントのトリガーは主に花凛がひいている。積極的な花凛が、奥手で逡巡しがちな豊の領域に、ぐいぐいと踏み込んでくる。そうした様子に、なんということか、こんなことがこの世にありうるというのか、ああ、これは夢だ、理想そのものなのだ。うめくのですね。
花凛、ものすごく可愛いお嬢さんなんですよ。ちょっとボーイッシュ。こざっぱりとして気持ちのいい、そんな性格がちょっと向こう見ずとも思えるのですが、若干危うく感じられる行動、そのたびごとに思う、この子大丈夫なんだろうか。心配して気を揉むほどに花凛の魅力も増していく、そんな具合なのです。距離が近いんですね。そして屈託がない。ぐっと、こちらの気持ちの少し内に入り込んでくる、そんな感覚。クールな子かと思ったらそうじゃない、表情豊かで、嬉しい気持ちも楽しさも、不満も不安も、たまに見せる意地悪っぽさも、すまなく思ってしょんぼりしてるその様も、色とりどりに咲いて美しい。しかもこれら感情は豊に向けられている、ということはすなわち豊を通じてこちらに向けられているわけで、ああ、花凛、なんて可愛いのだろう。愛しの花凛とはいったものだ。ええ、これは夢だ。ずっと夢見て、そして見果てぬ夢なのだ。読むほどにその思い強めるわけなのです。
『愛しの花凛』、1巻には以前フォワードに掲載された『あねごーれむ』の1話が収録されていて、いやほんと、これ、久しぶりに読んでみて、やっぱり不思議な感触。『愛しの花凛』に共通するところあるかな、そんな風にも思ったりしまして、ええ、なんか面白かったです。
- 堀泉インコ『愛しの花凛』第1巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2013年。
- 以下続刊
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