ちょっと懐かしい雰囲気漂うフランスのコメディ・ミュージカル。内容は他愛もない片思いものですが、一昔前の少女漫画にはまれる人なら充分楽しめるかと思います。幻想の女性に焦がれる男は、自分の目の前にいるその女性アンナに気付かず、対してアンナもその男に恋心を抱きながらも、—内容を話してしまうなんて野暮なことはよしましょう。
ヒロインを演じるアンナ・カリーナも魅力的ですが、映画自体も六十年代フランスのモードを反映していて目に楽しいです。色彩もそう、ビニールなど当時の新素材で作られた衣装も可愛い。レトロファッションが好きな人には、訴えるものがあると思いますよ。
ミュージカルなので、肝心の音楽についても話しておきましょう。
『アンナ』のサウンドトラックは、セルジュ・ゲンズブールが担当しているます。ゲンズブールはフレンチポップスを語る際に外すことのできないビッグネームで、この人の作った『夢見るシャンソン人形』は日本でもヒットしました。
ポップでコケティッシュな外見の裏に異なる真実が隠されているのはゲンズブールの常ですが、それは『アンナ』についても同様。一見すると「他愛もない片思いもの」であるこの映画も、裏返せば、自分が見ている自分と他人が見ている自分という、相容れない自己像のせめぎ合いの物語であるといえます。そしてそれは、ちゃんとゲンズブールのシャンソンに表されているんですね。
この映画を象徴する曲が『太陽の真下で / Sous le soleil exactement』です。アンナ・カリーナの歌う海岸でのシーンは本当に美しくてため息でそうですし、この曲そのものが素敵です。アンナ・カリーナが後に出したアルバム(『恋物語 / Une Historie d'Amour』)にも収録されていて、彼女も気に入ってる曲なのかも知れません。
『太陽の真下で』と双璧をなすのがマリアンヌ・フェイスフルの歌う『Hier ou Demain』なのですが、これは残念ながらサントラには収録されていません。非常に美しい歌声で、おそろしく美しくうたわれます。男性の恋心をもてあそぶような内容なのですが、これだけ魅力的ならもてあそばれても仕方ないなんて納得しますね。
この曲を収録するCDはないかちょっと調べてみたのですが、残念ながら分かりませんでした。『アンナ』のDVDでしか聴けないかも知れません。なのにDVDもそしてサントラも軒並み生産終了ってどういうことでしょう。本当に残念に思われてなりません。
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